MBAを取得した
きっかけは“焦り”

 実際に学び直しをして、自身のキャリアを大きく変えたビジネスパーソンにも話を聞いた。エンジニアリングファームの株式会社メイテックで技術者として働く、小金澤嘉幸氏だ。彼は、2017年から2年間ビジネススクールに通い、44歳のときにMBAを取得したという。

「私の専門は制御系のソフトウエア開発です。メイテックに正社員として所属しつつ、顧客先に派遣されて、設計仕様を作ったり、プログラミングをして制御したりするのが主な業務でした。現在は、顧客先で事業の立ち上げや、アイディアの創出をする『事業開発業務』でコンサルティングをしています」

 社会に出てから、42歳までエンジニア一筋だった彼が、専門外の経営学を学ぶ「MBA」に興味を抱いたきっかけは、ある交流会での出会いだったという。

「以前はMBAに対して、起業する人や大企業のエリートが取得する学位であり“自分には関係ないもの”と思っていました。でも、エンジニアの交流会に参加したとき、MBAを取得したエンジニアの方と知り合って『エンジニアでもMBAを取る人がいるんだ』と、衝撃を受けて興味を持ったのがはじまりです」

 好奇心が膨らむ一方で、胸の内には「キャリアへの焦りも感じていた」と、小金澤氏は振り返る。

「昨今は年功序列や終身雇用が崩壊し、雇用の形がどんどん変化していて、不安定な世の中ですよね。その影響で40歳を超えたあたりから『何か始めなければマズい』という焦りが、MBAへの関心をより強くしたように思います」

 その後すぐに、名古屋商科大学のビジネススクールに通い始めた小金澤氏。スクールには、彼以外にエンジニアはいなかったというが、未知の分野に飛び込む不安はなかったのだろうか。

「仕事はかなり慎重にするほうなのですが、プライベートは逆に楽観的で『とりあえずやってみよう』と、勢いで始めてしまうタイプなんです。当時も、MBAについてほぼ何も調べずにビジネススクールに入学しました。周りの学生は、外資系企業や金融機関に勤めるサラリーマンがほとんどで、私はクラスメイトに『どうして入学したの?』と、理由を聞かれることも多かったです」

 初めこそ疎外感はあったものの、いざ学生生活が始まると、学生同士でともに切磋琢磨(せっさたくま)する日々が待っていたという。仕事と食事、睡眠以外は、すべて勉強に充てる、かなりハードな日々を過ごした。

「そうなると、楽しむしかないですよね。24時間という限られた時間のなかで、仕事と勉強を両立するには、どんな短い時間もムダにできない。会社の飲み会は断り、スマホでネットサーフィンしていた時間も勉強に充てました。そうするうちに、自分の“ムダな時間”が可視化されたんです。在学中ほどではありませんが、今もすきま時間は知識のアップデートに使っています」