地元企業と長く取引のある地方銀行は、取引先が事業承継のためのM&Aを行う際、最も活躍すべき存在だ。しかし、現実は他県の企業への足掛かりがなかったり、M&A実務のノウハウが不足したりしていることから、仲介会社に丸投げすることが多い。滋賀銀行と京都銀行は、事業承継のM&Aにおいて正反対ともいうべき姿勢を取っており、地銀界と仲介業界で話題になっている。特集『沸騰!M&A仲介 カネと罠』(全15回)の#9では、地銀の取り組みについてレポートする。(ダイヤモンド編集部 片田江康男)
地銀にとって仲介会社は“盾”
M&A戦略再構築が急務
中小企業のM&Aにおいて、地方銀行の存在感は驚くほどない。それには大きく二つの理由がある。
一つは単純に経験とノウハウが少ないことだ。首都圏の大手地銀でさえ、仲介会社と協業せずに取引先のM&Aを仲介やファイナンシャルアドバイザー(FA)として支援し、成約に至った件数は年間2~3件程度といわれる。
もう一つは、他県企業への足掛かりがないため、マッチングすることが難しい点だ。M&A成約までには3~4年要することもあるため、手間とコストがかかり割に合わないのだ。
これらの理由から、多くの地銀は取引先の事業承継を行う際に、M&Aの提案を積極的に行ってこなかった。
日本M&Aセンターは、地銀のこうした事情にいち早く着目。全国の地銀と関係を築き、M&Aニーズがあったときにはその情報を吸い上げ、M&A仲介を引き受けるネットワークをつくり上げた。
地銀にとっては、慣れないM&Aに首を突っ込み、売り手企業と買い手企業間の面倒な調整で骨を折るくらいなら、それらを喜んで引き受ける日本M&Aセンターを頼った方が手っ取り早い。
かつて日本M&Aセンターで地銀との関係構築を担当していた元幹部は、「地銀にとって日本M&Aセンターは、M&Aに関するクレームやトラブルなどの面倒なことから銀行を守る“盾”のような存在だ」と話す。
便利な“盾”を使うことを覚えた地銀に、M&Aの経験やノウハウなどたまるはずもない。こうして、多くの地銀が日本M&Aセンターを頼り、取引先のM&A需要を“丸投げ”する構図が生まれた。
だが、地銀を取り巻く環境はここ数年で激変。人口減少による地域経済の疲弊や低金利による本業不振、加えて後継者不在による黒字廃業企業続出の危機が顕在化。これらの変化は、日本M&Aセンターとの関係を再考するきっかけになった。
日本M&Aセンターは、日本の中小企業を救えとばかりに、全国の地銀などから事業承継のためのM&Aニーズを吸い上げて急成長。だが、基本的に同社はもうけにつながる一定規模のM&Aしか手掛けない。さりとて自行でM&Aを手掛けるには経験とノウハウが足りない。
地元経済のために日本M&Aセンターにすがり付く戦略を取るのか、改めて独自にノウハウ構築に動くのか。地銀は今、戦略の再構築を迫られている。
次ページでは、いち早く戦略を定め、動きだした滋賀銀行と京都銀行の例を紹介したい。