沸騰する中小企業の事業承継ビジネス。商機を逃すまいと、これまで静観していた野村ホールディングスやオリックスなど金融界の巨人たちも動き始めた。一方、売り手と買い手のマッチングに人工知能(AI)を駆使した新興勢力も存在感を増している。特集『沸騰!M&A仲介 カネと罠』(全15回)の#14は、それぞれの強みを生かした戦略で覇権を競う「異種格闘技戦」の最前線を探った。(ダイヤモンド編集部 重石岳史)
オリックスがM&A仲介事業に本格参戦
企業経営者との“ちょうどいい”距離感
「われわれの強みは全国で約900人の営業担当者が日々、中小企業の経営者と接していること。リースから資産運用まで相談内容は多岐にわたり、この4~5年増えているのが事業承継に関する相談。顧客のニーズが変化する中で、われわれも提供できるソリューションを変えていかないといけない」
オリックス法人営業本部国内事業推進部長の丸山大輔氏はそう話す。丸山氏が言う「ソリューション」こそが、中小企業のM&A仲介事業だ。
同社は2021年11月、M&A仲介事業の「本格展開」を始めた。本格展開と彼らが言うのは、これまでも親族内承継や、M&A仲介専業会社への紹介などは行ってきたからだ。
だが事業承継に関する相談が近年増える中で、M&A仲介を手掛ける専門部隊の「事業承継ソリューションチーム」を設置。メンバーの10人が全国の売りや買いのニーズを集約し、条件に見合った相手先を探す。既に約2000社から事業承継に関する相談が寄せられているという。
オリックスの参戦について、あるM&A仲介関係者は「企業オーナーからすれば、事業の売り・買いはメインバンクに相談しづらい。仲介専業に相談すると情報が出回るリスクがある。その点、オリックスはオーナーの相談を気軽に受けられる“ちょうどいい”距離感がある」とみる。オリックスと取引関係のある中小企業は約10万社に上るとされ、その顧客網を基盤にM&A仲介を手掛ける、いわば「ボトムアップ型」のビジネスモデルだ。
このタイミングでオリックスが本格展開を始めたのは、中小企業庁が中小M&Aガイドラインを定めたことも大きい。
売り手と買い手の両方から手数料を得る両手取引のM&A仲介は、利益相反の可能性が指摘されている。だが丸山氏は「ガイドラインには、コンフリクトのどこに注意すればいいのかが示されている。それをも守れば後ろ指を指されることはない。(M&A仲介を)やりたかったけどやってはいけないと思っていたが、環境が整ったので動き始めることができた」と話す。
拡大する事業承継ニーズに対応しないままでは、商機を逸する。M&A仲介会社だけがぼろもうけの構図に待ったをかけるべく、金融大手、そして新たなテクノロジーを駆使した新興勢力が今、それぞれの戦い方で膨張する市場に続々と参入している。