最強のテンバガー#10Photo:PIXTA

「60万社が黒字廃業危機」――。中小企業の後継者不足は深刻で、事業承継にはM&Aが有力な選択肢だ。上場3社のうち、最大手の日本M&Aセンターの成約件数も右肩上がりで推移しているが、超高齢社会の救世主となれるのか。特集『最強のテンバガー』(全18回)の#10では、日本M&Aセンターの三宅卓代表取締役社長に成長戦略から高年収の秘密、両手手数料への批判まで直撃インタビューをした。(ダイヤモンド編集部 篭島裕亮)

中小企業の多くは深刻な後継者不足
M&Aの成約件数は4年で倍増に

「超高齢社会」という日本経済のピンチをビジネスチャンスに変えて、10年連続で増収増益を見込むのが日本M&Aセンターだ。中小企業のM&Aの仲介が主力ビジネスだが、直近10年の売上高の平均成長率は24.2%で、成長企業ランキング(本特集#1『10年で高成長した企業ランキング【全70社】実はいた、日本のGAFA…の卵!』参照)では4位に入っている。

 なぜ日本M&Aセンターは急成長を遂げられたのか。

 外部環境要因としては、中小企業の経営者の高齢化だ。2016年度版の中小企業白書によると、中小企業の経営者のボリュームゾーンは1995年の40代後半から60代半ばへと移動。70歳以上も多く、その大半が深刻な後継者不足に悩んでいる。これは「黒字」企業であっても変わらない。

「かつては子供や親族が事業を承継するケースが一般的でした。ですが、昨今は黒字で利益が出ていても、事業に安定性がないと子供が継がないケースが増加。その結果、M&Aによる事業承継が増えています」(ニッセイ基礎研究所・中村洋介主任研究員)

 さらに菅義偉首相のブレーンであるデービッド・アトキンソン氏は、日本企業の生産性向上のために、中小企業再編の必要性を強く主張。政府も法改正を通じて事業承継の支援を打ち出している。M&Aによる中小企業の事業承継は「国策」といっていい。

 中小企業は日本企業の約 99%を占め、従業員数では約70%を占める。一概に中小企業の生産性が低いわけではないが、デジタル化が急速に進む中で、IT投資ができない企業は競争力が低下していくことは間違いない。

「地域によっては中小企業が町のにぎわいをつくり、地方創生でも重要な役割を果たしています。何の策もなく失われたら、さまざまな悪影響が出るでしょう。M&Aの買い手にとっても、なかなか売りに出てこない企業を適切な対価で買えれば、ビジネスを拡大するチャンスです」(中村氏)

 日本M&Aセンターの特徴は、地方銀行や信用金庫、950以上の会計事務所と提携して、国内最大級のM&A情報ネットワークを構築していること。同社のM&Aの成約件数は2016年3月期の420件から、20年3月期は885件と4年で倍増しており、事業承継のプラットフォーム的な存在になっている。

「M&A仲介は情報が集まってくるほど有利になります。日本M&Aセンターの先行者メリットは大きい」(中村氏)

 とはいえ、気になるニュースもある。「両手手数料」の問題である。河野太郎行政改革担当大臣が、M&A仲介企業が買い手と売り手の両方から手数料を取ることについて、利益相反になるリスクを指摘している。事業承継のM&Aでは、リピーターになる確率が高い買い手側の利益を重視しやすい構造的な問題がある。

「中小企業の事業承継のM&Aでは、相手探しが重要です。全国にネットワークを持つ仲介会社が買い手と売り手をグリップする利点は大きいが、今後はより丁寧な説明が必要になってきます」(中村氏)

 次ページでは、日本M&Aセンターの三宅卓代表取締役社長にインタビューを敢行。今後の成長戦略から、河野大臣が指摘した「両手手数料」問題、高いとうわさの年収についてまで直撃した。