満を持して、トヨタ自動車が「2030年にEV(電気自動車)350万台を販売する」大方針を掲げた。トヨタはこの大本営発表をもって「EVに及び腰」という世間の認識を払拭したい構えだ。それでもトヨタにとって、EVシフトはガソリン車やハイブリッド車(HEV)で極めた「勝ちパターン」を自ら取り下げるようなものである。特集『絶頂トヨタの死角』の#3では、EV350万台を達成した時点のトヨタの業績を大胆に試算し、EV大攻勢へかじを切るトヨタの苦悩に迫った。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)
大本営発表をせざるを得なかった裏事情
財務試算でトヨタの本音を読み解く
2021年末に開催されたトヨタ自動車の「バッテリーEV(電気自動車)説明会」。トヨタは30年のEV販売目標を(従来のEVと燃料電池車〈FCV〉の合計で200万台から)350万台へ引き上げると高らかに宣言した。トヨタの豊田章男社長は「350万台、30車種を投入してもEVに前向きじゃないと言われるならば、どうすればいいのか教えてほしい」と語気を強めて言い、EV大投入の積極姿勢を猛烈にアピールした。
株式市場は敏感に反応し、一時はトヨタの時価総額は40兆円を突破。自動車アナリストが「いずれ時価総額約100兆円の米テスラと太刀打ちできる日がくるかもしれない」と希望的観測を漏らすくらい、投資家のボルテージは一気に高まった。インベスター・リレーションズ(IR)の観点でいえば、トヨタはこの説明会の宣伝効果を最大限に享受できたといえるだろう。
そもそもトヨタは、開発の遅れなど「技術的な問題」を理由にEV投入をためらってきたわけではない。一足飛びにEVシフトが進むと、トヨタの原価低減力を支えるサプライヤーが事業転換などに対応できない。石炭火力電源に依存した日本では、EVや電池の製造工程での炭素量削減には課題が多い。
だからこそトヨタは、今ある競争力を温存するため、エンジン車やハイブリッド車(HEV)の時代ができるだけ長く続くように時間を稼いできたのだ。
トヨタが狙うのは、エンジン搭載車からEVへの移行を円滑に進める「ソフトランディング」だ。実際に豊田社長は「EVもHEVもFCVもガソリン車も本気である」として全方位戦略を鮮明にしている。どのタイプの車がどの程度の期間にわたって売上高・利益に貢献するのか。その組み合わせいかんによって、トヨタの収益構造は大きく変わる。
今回の説明会では、トヨタは競争戦略上、あえて「大事なポイント」を明かしていない。30年時点の販売台数をどのあたりに設定しており、EVの構成比はどの程度なのかということだ。さらに言えば、EV350万台のうち中国市場の構成比も利益率を左右する重要なポイントだ。
トヨタが強いて語らなかったことにこそ、トヨタの本音が透けて見えるものだ。そこでダイヤモンド編集部では、これらの不確定要素を大胆に先読みし、トヨタがEV350万台を達成するとしている「8年後の業績」を独自に試算した。
次ページ以降では、その試算結果の詳細を図解付きで大公開する。結果からは、トヨタがEV大攻勢へ「進むも地獄、退くも地獄」の厳しい現実があらわになった。