満を持して、ソニーグループがEV(電気自動車)への参入を明らかにした。かつてスマートフォンで米アップルに負けて辛酸をなめてきたソニーが、今度はアップルの水平分業モデルを自動車業界で再現することで、存在感を示そうとしている。EVで快走する米テスラに続き、アップルもモビリティの覇権争いに名乗りを上げることは確実だ。特集『絶頂トヨタの死角』の#7では、トヨタと異業種参入者が火花を散らす「新たなモビリティ産業」の構図を解き明かす。(ダイヤモンド編集部 村井令二)
ジョブス氏の産業破壊を再現へ
ソニーが仕掛けるゲームチェンジ
「ソニーはモビリティを再定義する」
米テクノロジー見本市「CES」でソニーグループの吉田憲一郎社長がEV(電気自動車)事業化の検討を表明した。そのプレゼンテーションで、吉田社長が明確に意識していたのがアップルであることは明らかだ。
アップル創業者の故スティーブ・ジョブス氏が2007年に初代iPhoneを発表した際に語った言葉が「アップルは電話を再定義する」だった。それ以降、iPhoneに代表されるスマートフォンは既存の携帯電話産業を徹底的に破壊した。
「モバイルの破壊力」を肌で知るソニーが、ジョブス氏の台詞を引き合いに本気でEVに参入する意向を表明した格好だ。トヨタ自動車がトップに君臨する自動車産業においても、業界構造の破壊を再現する構えを示す。
ソニーはEV参入のビジネスモデルをこれから磨き上げていくことになる。そして、トヨタの敵はソニーだけではない。EV販売で先行する米テスラや、24年以降に独自のEV構想を打ち出す臆測が絶えないアップルは、自動車産業のゲームチェンジを次々と仕掛けていくだろう。
GAFA(グーグル、アップル、メタ・プラットフォームズ〈旧フェイスブック〉、アマゾン・ドット・コム)に代表される米国のITジャイアントにとって、もはやクルマは「IoT(モノのインターネット)端末」に過ぎない。次ページでは、IT業界の新規参入者とトヨタが火花を散らすことになる「新たなモビリティ産業」の苛烈なる戦国絵図を解き明かしていこう。