絶頂トヨタの死角#4Photo:picture alliance/gettyimages

トヨタ自動車の豊田章男社長が目指す「自動車会社からモビリティカンパニーへの転換」の象徴といえるのが、静岡県に造る実験都市「ウーブン・シティ」だ。ところが、その内実を取材すると、将来の社長と目される豊田社長の長男が開発をリードしていることから、「(実験なのに)失敗できない」というプレッシャーがかかり、都市開発の実績があるコンサルティング会社頼みの開発が行われていることが分かった。特集『絶頂トヨタの死角』(全15回)の#4では、未来都市開発の裏側に迫る。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)

「失敗できぬ」「名ばかりアジャイル開発」
ウーブン開発でトヨタの強みがあだになる理由

 ウーブン・シティ(Woven City、以下、Woven)の工事が進む静岡県裾野市で1月23日、“政変”が起きた。市長選挙で保守分裂選挙になった末に、34歳の全国最年少市長が誕生したのだ。

 政変が起きた要因の一つに、同市で稼働していたトヨタ自動車東日本東富士工場の閉鎖があった。最盛期には2000人が働いていた工場の閉鎖により、裾野市は固定資産税の税収と雇用の場を失った。

 同工場と持ちつ持たれつだった裾野市は、潤沢な税収を背景に、人口当たりの小中学校数が近隣自治体の2倍もあるという“過剰な箱もの整備”を行っていた。公共施設の老朽化で維持費がかさむ窮状に、工場閉鎖の税収減が追い打ちを掛けた。

 工場閉鎖後、前市長が「財政非常事態」を宣言するに至り、市民に不安が広がった。対立候補(現市長)は、「企業誘致で実績を出せていない」と当時の市長を批判していた。トヨタの工場撤退に端を発する財政や雇用の問題が、市長選の争点になったことは間違いない。

「自動車工場」と「実験都市(自動運転車のテストコース)」では、税収も雇用創出効果も月とスッポンだ。それでもなお、裾野市ではトヨタへの依存心が消えていない。市民は「トヨタが工場跡地と一体で都市開発をしてくれる」という淡い期待を抱いたり、「Wovenに住む発明家や技術者らは2000人。それらの住民1人につきサポート要員3〜4人が付くと仮定すると、8000〜1万人が市内と周辺に滞在することになる」と、捕らぬたぬきの皮算用をしたりしている。

 トヨタの豊田章男社長は裾野市で高まる期待値をあえて下げようと、「裾野市全体がWovenになるわけではない」「Wovenはテストコース。それを造るに当たっては、普通は(内容は)秘密」「市民の税金には手を付けていない。テストコースの閉じられた環境で、(他地域に展開するための)最初の原単位をつくらせてほしい」(トヨタの自社メディア「トヨタイムズ」より)と冷静に情報発信している。

 このようにWovenが完成前から耳目を集めているのは、ある意味で当然のことだ。Wovenは裾野市のみならず、日本経済にとっても重要なプロジェクトだからだ。

 消費者が対価を支払う“価値”が車という製品から移動というサービスにシフトする激変期を迎えるトヨタはもちろんだが、産業界全体にとってもWovenは「一条の光」といえる。とりわけ通信会社や電力会社、電機メーカーなどは、国内市場の縮小に加えて自社の国際競争力が衰える中で、未来都市を支える生活インフラを構築してパッケージで輸出しようともくろんでいるのだ。

 Wovenの重要性は、章男氏や日本電信電話(NTT)などの積極的な参加姿勢からも明らかだ。

 章男氏は個人として、Wovenを開発する事業会社を傘下に持つウーブン・プラネット・ホールディングス(HD)に50億円を出資。同社傘下の事業会社、ウーブン・アルファの代表取締役には長男の豊田大輔氏を抜てきした。

 NTTはスマートシティーを事業化するためトヨタと2000億円相当の株式を持ち合う資本提携に踏み切った。中部電力や東日本旅客鉄道(JR東日本)といったその他のレガシー企業もこぞってWoven開発に参画しようとしている。

 しかし、である。その熱量の高さとは裏腹に、Woven開発が順調に進んでいるとはいえない。しかもトヨタの企業体質がプロジェクト進捗の足かせになってしまっているようだ。次ページ以降では、その内実を見ていこう。