脱炭素#3
Photo:JIJI

政府の方針どおりに2030年半ばに「脱ガソリン車」が実現するとしたならば、日本の自動車メーカー7社への影響はどうなるのか。ダイヤモンド編集部では、先進国の車種全てをEV(電気自動車)100%に転換した場合の雇用・損益への影響を独自に試算した。特集『脱炭素 3000兆円の衝撃』の#3では、EVシフトでトヨタ自動車が8700億円もの減益となるなど、極めて「シビアな結果」があぶり出された。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)

国内生産拠点を持つリスクが露呈
自動車産業に課された「高いハードル」

 昨年12月、日本自動車工業会主催の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)会見では、いつにも増して緊張感が漂っていた。

 直前に、政府が掲げた「2050年カーボンニュートラル(炭素中立。二酸化炭素の排出量と吸収量をプラスマイナスゼロにすること)に伴うグリーン成長戦略」を受けて、その具体的指針として30年半ばに新車販売を「ガソリン車ゼロ」とする目安が示されたタイミングだった。これまでは、30年の新車販売の30~50%は従来車(ガソリン車など内燃機関車)とされていたのに、一気に向こう10年余りでガソリン車が消えるシナリオへ一変したのだ。

 当然のことながら、記者の質問は脱炭素や電気自動車(EV)シフトへ集中した。豊田会長はその質問に応じる間ずっと、いら立ちをあらわにしながら強烈な危機感を示し続けた

「日本でものづくりを残して雇用を増やし、税金を納めるという自動車業界のビジネスモデルが崩壊してしまう恐れがある」「日本で造っている車はCO2の排出が多いため同じ車を海外で造った方がよいことになってしまう」「自動車産業はギリギリのところに立たされている」――。

 豊田会長の発言の中でも「ライフサイクルアセスメント(LCA)」に関する問題提起には、もっともなことが多かった。LCAとは、製品・サービスの原料調達から、生産・流通、廃棄・リサイクルに至るまでの一連のライフサイクルにおける環境負荷の低減を定量的に評価する手法のことをいう。

 LCAの考え方にのっとれば、EVよりもハイブリッド車(HV)の方が環境負荷は低い。また、同じガソリン車でも、発電を化石燃料に依存している日本で造るよりも再生可能エネルギーが普及している欧州で造った方が、よっぽどエコな車ということになる(日本の電源構成における化石燃料依存率は77%)。

豊田会長
日本自動車工業会のオンライン会見で「ガソリン車ゼロ」方針に危機感を示す豊田章男会長 Photo:JIJI 

 世界の潮流では、脱炭素の実現がグローバルビジネス参画の“最低条件”となりつつある。その一方で日本のエネルギー事業者の動きは鈍く、直ちに日本の電源構成が劇的に変わることは期待できない。そのため、グローバル競争においては、日本に生産拠点を多数持つ国内自動車メーカーは圧倒的に不利な立場にある。

 にもかかわらず、政府のグリーン成長戦略で示された重要14業種の中でも、自動車・蓄電池産業に課せられた環境負荷低減のハードルは極めて高い。

 ある内閣官房官僚は「自動車産業は低燃費技術などこれまでも技術革新を着実に進めてきたので標的になりやすい」と言う。ならば、既得権益に守られたエネルギー事業者の抜本改革こそあって然るべきだろう。その意味では、豊田会長がいら立ちを見せるのはもっともな話だ。

 では、このままガソリン車からEVへ100%シフトすると仮定した場合、日系自動車メーカーの雇用と損益にどのようなインパクトを与えることになるのか。

 独自に試算した結果、極めてシビアな結果があぶり出された。500万人以上の雇用を吸収する自動車関連産業が吹き飛んでしまうかもしれないのだ。