サイバー攻撃は「報復」ではなく「レクサス潰し」?

 先ほど紹介した米IT企業のように、ロシアのランサムウェア攻撃というのは本来、全世界で1000の組織を機能停止にさせるほど恐ろしいものだ。日本でも2020年に本田技研工業の社内ネットワークがサイバー攻撃を受けた際には、大規模なシステム障害が起きて、国内だけではなくアメリカ、インド、ブラジルなどの11工場が操業停止に追い込まれ、復旧するまで3日もかかっている。同社はセキュリティの観点から公表していないが、多くの専門家は、これは「ランサムウェア攻撃」だと見ている。

 一方、今回の攻撃による工場停止はわずか1日で、翌日には復旧。もちろん、トヨタ関係者からすればこれでも十分に深刻な被害ではあるのだが、これまでの大規模ランサムウェア攻撃と比べるとかなり「ビミョーな被害」と言わざるを得ない。事実、政府も日本国民も今回のサイバー攻撃を「プーチンの報復」として受け取るヒマもなく、素早い稼働再開によって攻撃自体も忘れ去られ始めている。

 こういうモヤモヤした状況を踏まえると、ひとつの可能性が浮かび上がる。それは小島プレス工業のサイバー攻撃は「プーチンを非難した岸田首相にギャフンと言わせる」とか、「ロシアに宣戦布告をした日本国民を恐怖のどん底に突き落とす」とかではない、まったく別の目的があるかもしれないということだ。

 では、「報復」ではないとしたら何か。これはあくまで個人的な推測に過ぎないが、ロシアと被害者である小島プレス工業を取り巻く環境を俯瞰してみると、「レクサス潰し」という可能性もゼロではないのではないかと思っている。

 実は今、プーチン大統領はロシアの国産高級車「アウルス(AURUS)」を猛プッシュしている。

「なんだそれ?」という人のために説明すると、プーチン大統領が公用車にしているロールスロイスのようなゴツい高級車「アウルス セナート」を出している新興の高級車ブランドだ。20年には初のクロスオーバーSUVとなる「アウルス コマンダント」のプロトタイプも目撃されている。

 なぜ猛プッシュしているのかというと、プーチン肝いりの国家プロジェクトだからだ。車の開発はNAMI(中央自動車エンジン研究所)という国営研究所。「アウルス セナート」もプーチン大統領自ら広告塔となって国内外にアピールをしており、「アウルス コマンダント」も次期公用車になるのではとささやかれている。

 なぜこんなに必死なのかというと、ロシアの権力者たちにとって「国産車普及」は、これまで何人もが挑んできたがなかなか実現できていない「悲願」だからだ。