ご存じのように、「レクサス」は一部を北米で生産をしているが基本的には国内工場で生産され、海外170カ国以上に輸出されている。つまり、「レクサス」の生産体制に何かしらのダメージを与えようというサイバー攻撃は、わざわざトヨタ本体を攻撃して、全世界の生産拠点を混乱させるまでの必要はない。「日本国内のサプライチェーン」だけを混乱させればよく、下請け企業にダメージを与えるだけでも部品の受発注が止まるので、十分に効果がある。そう考えると、なぜトヨタ本体やデンソーのような比較的大きな1次下請けではなく、「小島プレス工業」だったのかということも説明がつく。

小島グループにレクサスの質を担保する技術が蓄積

 小島プレス工業の九州拠点として、2006年8月に設立された「九州小島」の求人情報にはこのようなセールスポイントが記されている。

<当社は、レクサス車の内外装部品を手掛けており、取引先はトヨタ自動車九州(株)殿です>(マイナビ2022)

 また、小島プレス工業の子会社には、レクサスのバッテリー用ケース等の製作をおこなっているハマプロトや、同じくレクサスの外装部品(樹脂製品)を製造している内浜化成などがある。つまり、「レクサス」という高級感を担保している質の高い部品や技術が小島グループ内には蓄積しているということだ。

 今回そのような企業に「ランサムウェア攻撃」が行われた。脅迫メールが来て身代金を要求されたとしたら、そこでは何かしらの貴重な情報が奪われている可能性もある。

 そう遠くない未来、「アウルス」からレクサスとどことなくて似たラグジュアリー感のある高級車が発売される、なんて笑えない事態が起きるかもしれない。

 くどいようだが、これらはあくまで筆者の勝手な想像である。ただ、ウクライナへの侵攻の最中、中国の軍用機9機が台湾の防空識別圏に侵入したように、紛争やテロのどさくさに紛れて自国の権益を拡大するような「工作」を進めるというのは、生き馬の目を抜く国際社会では常識だ。

 今回のサイバー攻撃を受けて、評論家や専門家の皆さんは「日本のセキュリティはザルだ!」「もっと備えないと大変なことになるぞ!」と渋い顔をして議論をしている。しかし、実は時すでに遅しで、先方が欲しいものはもうとっくに奪われてしまっているかもしれない。

(ノンフィクションライター 窪田順生)