ダイヤモンド編集部は2017年、JAグループ京都の米卸、京山が販売したコメに中国産米が混入していた疑いがあるという記事を公表した。すると、記事に対するネガティブキャンペーンが農林族議員や農水省の官僚を巻き込んで展開された。連載『農協の大悪党 野中広務を倒した男』の#22では、JAグループ京都会長の中川泰宏と親しい政治家らが、疑惑の真相を解明しようとする改革派に圧力をかけた事実を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)
行政による立ち入り検査の指揮官
農水省局長がJA京都中央会と“癒着”の疑い
ダイヤモンド編集部へのネガティブキャンペーンは、産地偽装疑惑の記事を公開した2017年2月13日から始まっていた。
同日朝、ある国会議員から筆者に電話があり、「ダイヤモンド社は(中川泰宏が会長を務めるJA京都中央会などと)闘い抜く覚悟はあるのか?」と聞かれた。永田町かいわいではダイヤモンド編集部が記事を撤回、謝罪するといううわさが何者かによって流されていた。
筆者は「記事の撤回などあり得ないし、主張を曲げることもない」と答えたが、国会議員の口ぶりから、早くも記事をつぶそうとする動きが始まっていることに軽い胸騒ぎを覚えた。
2日後の15日、京山はダイヤモンド社に損害賠償を請求する訴状を公表した。ご丁寧にも「週刊ダイヤモンド」に掲載を求める謝罪文の“見本”が、あたかもダイヤモンド社が作成した文書であるかのように訴状に添付されていた。
この文書が永田町で出回り、「『ダイヤモンド社が記事の誤りを認め、白旗を揚げた』といううわさが広がっていた」(自民党関係者)という。
京山は訴状だけではなく、記事への反論などを次々とプレスリリースしていたのだが、その中には事実に反することが含まれていた。
裁判での勝敗に関わる重要な事実の真偽については本連載#23で詳述する。ここでは一見ささいなウソだが、京山の体質を象徴している情報発信の例を挙げておきたい。それは、公表資料にあった「現在、農水省に調査を“依頼”しており、いずれ事実が明らかになる」という一文である。
京山への立ち入り検査を実施していた農水省に取材したところ、担当部署は「業者から依頼されて身の潔白を証明する検査などしない」(食品表示・規格監視室)と、京山のプレスリリースの内容をはっきりと否定した。
この件については15日の国会(衆議院農林水産委員会)でも取り上げられた。農水省消費・安全局長だった今城健晴が「全くそういう(依頼を受けた)事実はない。それは違うと京山に申し入れた」と答弁した。
「いずれ事実が明らかになる」と信頼回復に自信を見せる企業が、それと同時に事実に反する内容を発信していることは理解に苦しむ。
後に、京山が「依頼」という言葉を使うに至った経緯に中川が関わっていたことを、JA京都中央会専務の牧克昌が明らかにしている。
牧によれば、農水省の職員が立ち入り検査のために京山を訪れた際、同社社長が牧に電話して検査を受け入れていいかどうかお伺いを立ててきた。その際、牧と同じ車に乗っていた中川が「うちは悪いことせえへんさかいに全部見てもらえ」と牧に指示した。それを受け、牧が「協力して、ちゃんと調べてもらえ」と京山社長に伝えたため、農水省に「依頼した」という表現になったのだという。外部者からは理解し難い内輪の論理だが、それがそのまま外部に発信されてしまうところにJAグループ京都という組織の病が表れている。
実は、国会でこの問題を追及し、今城から答弁を引き出したのは当時の自民党農林部会長の小泉進次郎だった。
小泉がこの国会質疑に立つ直前、元農相で農林族のドンだった西川公也から圧力を受けていたことはあまり知られていない。小泉はどのような言葉を掛けられたのか。