農協の大悪党 野中広務を倒した男#24京山の兄弟会社、京都食料の倉庫でのコメの出荷作業。京都食料は京山から大口の取引先を引き継ぎ、急成長している Photo by Hirobumi Senbongi

産地偽装疑惑の記事を巡るダイヤモンド社とJA京都中央会などとの訴訟は2021年3月、ダイヤモンド社の勝訴で終わった。JA京都中央会などは、記事による逸失利益に加え、JAグループ京都の米卸の“潔白”を証明するための調査・検査費用4318万円や多額の弁護士費用を請求していたが、これらは結局、JAグループ京都が負担することになった。訴訟を陣頭指揮していたJA京都中央会幹部は誰一人責任を取らなかった。連載『農協の大悪党 野中広務を倒した男』の最終回では、6億9000万円の損害賠償訴訟の裏で動いていたヒト・モノ・カネを解明する。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)

職員らから集めた米卸救済募金などの
カネはJA京都中央会会長の長男らに流れた

 筆者は2017年、JAグループ京都の米卸、京山が販売したコメに中国産米が混じっていた疑いがあるとする記事を書いた。その後、JA京都中央会や京山は6億9000万円の損害賠償を求めてダイヤモンド社を提訴。地方裁判所、高等裁判所が請求を棄却し、21年3月に最高裁判所が上告を棄却したことでダイヤモンド社の勝訴が確定した。

 当初「100%勝訴できる」と豪語し、毎週のように記事を否定する情報を発信していたJAグループ京都は、敗訴後25日間にわたって沈黙した。

 ようやく京山が出したプレスリリースが以下である。

「裁判では、農水省の検査結果でも明らかな通り、当社(京山)が中国米の混入を一切行っていないことが認められたものの、『千本木記者が(中国産米が混入している疑いがあるとの根拠にした)同位体研究所の判別結果を信じて記事を書いたことは仕方がなかった』との判断が行われました」

 この文章を読んで、むなしさを禁じ得なかった。文章は「裁判では、」で始まるので、その後に続くことの全てを裁判所が認めたかのように読めてしまう。というか、あえて“誤解”させるように複雑な言い回しをしているとしか思えない。

 農水省は京山が「中国米の混入を一切行っていない」などとは言っていないし、筆者が同位体研究所の判別結果を信じて記事を書いたことは「仕方がなかった」などという表現は判決文に存在しない。

 カギカッコでくくって文言を引用すれば、判決文に同じ文言があるのではと誤解される懸念があるが、それこそ文書制作者の意図するところなのだろう。

 付言しておくと、判決文に「仕方がなかった」に近い表現があるとすれば、「被告(ダイヤモンド社や筆者)らが同位体研究所による判別結果を信頼し、原告京山が販売したコメに外国産米が混入していた事実が真実であると信じたことについては相当な理由がある」(京都地方裁判所19年12月10日判決)というものだ。

 この表現により、裁判所は中国産米の混入がなかったことを認めているわけではない。当該の裁判は産地偽装の有無ではなく、記事に公共性や真実性があったかを明らかにするためのものだった。判決は、同位体研究所によるコメの産地判別の精度が92.8%だった(コメ1粒ごとに国産米を「国産米」、外国産米を「外国産米」と正しく判別できる確率。産地偽装疑惑を指摘した記事は、京山が販売していた「滋賀こしひかり」の10粒中6粒が外国産と判別されたことを報じていた)ことを理由に、外国産米の混入が「100%確実とまではいえない」としたものの、高精度である同位体研究所の判別結果を信頼に足るものと考えたことには合理性があり、外国産米が混入していた事実の真実相当性を認めたものだ。そのため、上記の引用部分のような表現が判決文の一部に入ったということにすぎない。

 以上は筆者の視点からの京山のプレスリリースへの批判だが、同リリースは農協関係者からの怒りも買った。

 なぜならば、JA京都中央会は全国の農協職員らから「京山救済募金」なる名目で支援金を集め、訴訟費用に充てていたが、その総括が、「いただいた貴重なカンパ・支援金は約4年間に及ぶ裁判費用、ならびに京都産米の信頼回復のために使わせていただきました」という一文で済まされていたからだ。

 兵庫県のJA兵庫西の関係者によれば「JA京都中央会から全国の農協に対して募金の依頼があり、職員はほぼ強制的に寄付させられた」という。JA京都中央会は17年に1500万円の募金を集めたことを公表しているが、最終的な集金額や使途の詳細については明らかにしていない。

 実は、この農協関係者らによるカンパは、JA京都中央会会長の中川泰宏の身内に流れていた可能性が高い。次ページでは、産地偽装疑惑に関する訴訟にかかったカネや激減した京山の売り上げがどこへ消えたかなどについて明らかにしていく。