ダイヤモンド編集部は2017年、JAグループ京都の米卸、京山が販売したコメに中国産米が混入していた疑いがあるとする記事を公開した。すると、農水省が京山に立ち入り検査を行ったり、国会で問題が取り上げられたりして、行政や政治家を巻き込んだ騒動に発展した。JAグループ京都はダイヤモンド社に6億9000万円の損害賠償を求める訴訟を起こすが敗訴する。連載『農協の大悪党 野中広務を倒した男』の#21~24では、産地偽装疑惑の記事の前後に何があったのかを明らかにする。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)
データに基づく記事を
政治力や脅しでつぶそうとする体質
これから本連載で4回にわたり、2017年2月にダイヤモンド編集部が公表したJAグループ京都の米卸、京山による産地偽装疑惑の記事に関することを書くが、その前にお断りしておかなければならないことがある。今後明らかにするのは、農水省による京山への立ち入り検査や国会審議の裏に何があったのかであって、産地偽装の有無を解明するものではないということだ。
ダイヤモンド社や筆者は産地偽装疑惑の記事を巡り、中川泰宏が会長を務めるJA京都中央会などから名誉毀損で訴えられた。記事の真実相当性が認められ勝訴したが、いまだ疑惑の真相を明らかにできておらず、社会的責任を果たし切れていないことは、個人的に申し訳なく思っている。
そうしたじくじたる思いがありながらもこの記事を書くのは、政府、与党とつながりのある、それなりの権力者の立場を脅かす記事を書いたときに何が起こり、そのとき、メディアがどう対応したかを記録に残した方がいいと考えたからだ。
当該の記事は、新潟県などの農協が集荷し、京山が販売したコメに中国産米が混入していた疑いがあることを報じるものだった(詳細は『「JAのコメ」に産地偽装の疑い、魚沼産に中国産混入』参照)。
筆者は記事を公表するに当たり、同位体研究所という検査機関に産地判別を依頼し、「魚沼産」や「滋賀産」として売られていたコメに中国産と判別されるコメが混入している疑いを指摘する報告書を受け取っていた。
同位体研究所は、農水省が産地偽装を摘発するための調査(産地表示適正化対策委託事業)を12年度から6年連続で独占して受託していた。同調査を請け負うには、産地判別で9割以上の検査精度があることをブラインドテストで証明しなければならないので、その信頼性はすでに実証済みだった。
だが、JA京都中央会は、「同位体研究所の産地判別は信頼できない」という悪評を流布して記事を真っ向から否定してきた。同位体研究所による産地判別の精度にお墨付きを与えていたはずの農水省の中にすら、JA京都中央会が流す悪評に同調する官僚が存在していた(本連載#22で詳述する)。
以上が産地偽装疑惑の記事の顛末だが、実は当該記事を公開する1年前から、JA京都中央会はダイヤモンド編集部に対して訴訟をちらつかせてプレッシャーをかけてきていた。本稿では、JA京都中央会の内部文書などから“訴訟を示唆した抗議”のやり口を明らかにする。