演習で威嚇したものの
振り上げた拳を下ろせず?

 プーチン大統領が、ウクライナ国境で大演習を展開した本来の目的はウクライナを威圧し、NATO(北大西洋条約機構)加盟を諦めさせると同時に、ウクライナ東部のドンバス工業地帯をロシア支配下に置くことだったと思われる。

 この地域に多かったロシア系住民は、2014年のロシアによるクリミア併合後、「クリミアに続け」とロシアと一体化を目指して蜂起し、州政庁などを占拠、「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」の建国を宣言、ウクライナ政府軍との内戦となった。

 分離派の民兵は3万5000人程度と見られるが、ロシアのひそかな支援を受け、兵力14万5000人のウクライナ政府軍に対し優勢となり、15年にベラルーシの首都ミンスクで調印された「ミンスク合意」では、分離派の支配地域に「特別な地位」(高度の自治権)を認め、選挙を行うことになった。

 だがウクライナ政府は当然不満で合意は履行されなかった。今回の侵攻の背景には、合意がほごにされていることへのプーチン大統領の不満があったことは確かだろう。

 ただ最初から侵攻をするつもりで国境に大兵力を集めたのかどうかは疑問だ。

 兵力15万人規模の演習自体はそれほど特異な現象ではない。ロシア軍は4軍管区の回り持ちで毎年大演習を行い、2018年東部軍管区(司令部・ハバロフスク)主催の「ボストーク2018演習」には中国軍、モンゴル軍も招いて30万人以上の大演習を行った。朝鮮半島での米韓合同演習も参加兵力が30万人以上になることがある。

 だが今回のロシアの演習は、ウクライナ国境に極めて近い地域で行われ、露骨な威嚇とみられたから米国は大々的にこの演習を非難し、「侵攻準備」と警鐘を鳴らした。

 それに支援されたウクライナのゼレンスキー大統領も強硬な反露姿勢を示した。

 プーチン大統領は、振り上げた拳が世界の注目の的となり、何の成果もなく軍を引き揚げれば国内で威信を失うから、ますます強硬策に向かったということだろう。

補給が不足して立ち往生の可能性
親ロ政権樹立を念頭に市街戦避ける

 演習に参加している部隊は本格的な戦争をするほど大量の弾薬や燃料、食料などを持参することはまずない。にわかに越境出撃を命じられて出たものの補給が不足して立ち往生になったことは想像に難くない。

 冷戦期の米軍の見積もりでは、ソ連軍の自動車化狙撃(歩兵)師団は攻撃の場合、1日に1223トンの物資(弾薬462トン、燃料620トン、食料31トン、その他110トン)を必要とし、これは兵士1人当たり90キログラムと計算されていた。

 ロシア軍が15万人をウクライナに侵攻させれば、1日1万3500トンの補給が必要だ。かさばる品目も多いから、トラック1台に5トン積むとして、毎日2700台のトラックが前線に到着しなければならない。

「ロシア部隊は燃料、食料の不足により進撃が停滞した」との報道があるが、これを考えれば、現実にありそうな話だ。