2025年には団塊の世代の多くが後期高齢者に突入、認知症患者は700万人を超えると推定されている。つまり、その子である40~50代の団塊ジュニアたち、ビジネスマンとして最も脂の乗った世代がまさに認知症介護予備軍なのだ。特集『決定版 後悔しない「認知症」』(全25回)の#3では、妻に介護を丸投げなんてこともできない昨今、実際に認知症介護に奔走する男性ビジネスマンのリアルをお届けする。(ダイヤモンド編集部 野村聖子)
「母のせいじゃない、病気のせいなんだ」
罵声を浴びせられるたび、そう自分に言い聞かせた
夕方になると「買い物の習慣」が抜け切れず外出してしまう母親。毎回、暗い夜道で迷子になり「お母さんを保護しています」という交番からの電話を何度受けたか分からない――。
認知症の母を約10年間自宅で介護した日々を、吉田靖之さん(60歳・大手通信会社勤務)はこう振り返る。妻は、自身の実家で父を介護する姉をサポートし、2人いる弟もそれぞれの家庭で認知症介護を抱えていて、吉田さん一人で対処せざるを得なかった。
母の食事や入浴の介助はもちろん、おむつの世話もした。それでも毎日のように「靖之、私をバカにするんじゃないわよ!」「私の通帳と印鑑を返して!」とののしる母。そのたびに「母のせいじゃない、病気のせいなんだ」と自分に言い聞かせた。
幸い、勤務先はフレックスタイム制度を採用しており、母のデイサービスの時間に合わせて朝は7時30分に出勤し、午後3時には帰路に就くことができた。
母は、1年前に病気で入院したのをきっかけに有料老人ホームに入居。体は楽になったが、昨年から退職再雇用で給料は半分に。大学院に進学する娘の学費ものしかかる中、毎月20万円超の母のホーム代は正直痛い。「長男だから親には随分かわいがられた。その思い出が何とか自分を支えている」(吉田さん)。