生前贈与や遺言で、相続対策をしている人は少なくない。しかし認知症になると、これら相続対策の一切ができなくなる。それだけではない。夫婦の片方が亡くなり、残された方がすでに認知症だった場合、なんの備えもしていなければ相続財産額によっては子どもが相続税で大損する恐れがあるのだ。特集『決定版 後悔しない「認知症」』(全25回)の#4では、認知症に備えた相続対策のノウハウを専門家に聞いた。(ダイヤモンド編集部 野村聖子、監修/税理士法人弓家田・富山事務所代表社員 税理士・弓家田良彦)
「夫婦そろって認知症」も珍しくない
長寿社会で相続の現場が大激変
2020年の日本の平均寿命は男性81.6歳、女性が87.7歳(厚生労働省調べ)と、いずれも過去最高を記録した。そして最も多くの人が亡くなる年齢は、今は男性が80代半ば、何と女性では90歳前後だ。
世界に誇る長寿国であることは喜ばしいが、同時にそれだけ認知症に伴う諸問題が増えるということでもあるのだ。
亡くなった人の財産を引き継ぐ「相続」の現場もその一つだ。例えば、一昔前なら夫死亡時に妻が認知症であることは極めてまれだったが、今は夫婦共に認知症というケースも珍しくない。「相続を考える上で、認知症はもはや欠かせない要素だ」と相続の専門家たちは口をそろえる。
では、なぜ認知症が相続に大きな影響を及ぼすのか。