クレームはない?
厳しい状況に陥ってもメディア出演をやめない理由

 尾身先生とは出版後、特に連絡を取っていないのでご本人がどう思っているかは分かりません。田村憲久前厚労相からは、「ああ、こんなこと話したね、読んで振り返って思い出したよ」と言われました。大臣と私はずっと一緒に感染症ムラと闘っていたのです。

――東京オリンピック・パラリンピックや「GoToキャンペーン」などの対応で、尾身分科会長が自分のポジションを気にしていたり、政治を意識したりしている様子も詳細に描かれていました。政府の専門家と岡田さんが決定的に違うところはなんでしょう?

 私だったらまず、科学的見地に基づいた提言しかしません。政治家が相手だろうと、官僚が相手だろうと、メディアに出て国民に向けてであろうと、その立場は崩さない。ウイルス学・免疫学・感染症学的に見たらどうなのか、最悪の事態を考えたらどうなのか、それを正直に伝えるだけです。国民の被害を減らすことを第一に考え、政治家に忖度しません。

 国の専門家の先生方に対して、純粋に「どうして怖くないのだろう?」って思いました。先を見た対策を打たなかったら感染が拡大して医療がひっ迫するって、普通にウイルス学や感染症学で考えたら分かるのに。その対策を打たない。何で怖くないのかなと。

 この2年間、起こったことに対応するだけの繰り返しだったと思います。起こってほしくない事態は想定せずに、目を背けていた。感染症の危機管理はそれではダメなんです。とにかく、対策は早く強くやって短く切り上げて、流行を抑え経済も守るというのが鉄則です。

――この間、コロナ対応だけでなく、容姿や服装なども含めて、インターネット上でバッシングを受けてきました。それで発言やテレビに出るのをやめようとは思わなかったのですか?

 それはやっぱりつらい日もあります。ストレスのせいか食欲もなくなりました。一人で部屋にいるのが怖かったこともあります。テレビ局のスタッフさんや編集者の方、たくさんの方が力になってくれて。みかんやリゾットを差し入れてくれたり、塩だけのおにぎりなら食べられるじゃないかと用意してくれたり。共演者の方も気にかけてくれて、周りの方々に助けられて今、なんとかなっています。

 そんな人たちに応えたいから、テレビのプロデューサーやディレクターに求められれば番組に出る。また、やるべき対策を訴えないと日本はどうなるのかという不安、恐怖に近いものもありました。誰かがきちんと、国の専門家らの対策の間違いについて指摘しなければならないんです。

 一人でも正面切って正論を言ったら、変わるのかなとも思いました。それで私はメディアを通して伝える役回りになりましたが、伝えるまでにはしっかり多くの専門家、ドクターと議論を重ねています。