期日前の投票が高かったのは、新型コロナの感染拡大で早めに済ませよう、少しでもすいている時に投票しようという意識があったためであろう。期日前投票の投票率が高かった地域が、全羅南北道、光州の与党圏が強い地域であったことから、与党「共に民主党」の強い働きかけがあったと思われる。

 半面、野党系の強い慶尚南北道の投票率が予想していたほど伸びなかったともいわれている。また、選挙当日のコロナ感染者が34万人で最多となったことから、野党支持の多い高齢者の投票率が伸びなかったともいわれている。

 第2に、尹錫悦氏と安哲秀(アン・チョルス)氏の候補一本化の成果があまり見られなかったことである。

 一本化した当時、安哲秀氏は10%程度の支持基盤を有していたので、尹錫悦氏の票を合算すれば李在明氏を圧倒できる基盤はあった。しかし、安哲秀氏の支持票が期待通りに尹錫悦氏に向かわなかったことが接戦を招いた根本的要因であろう。

 尹錫悦氏と安哲秀氏は最後のテレビ討論会終了後会談し、候補の一本化を図ったが、タイミング的に遅かったのかもしれない。既に在外韓国人の投票は終了しており、同投票で安哲秀氏に入れた票は無効票となっている。

 また、在外投票の終わった2月28日に、安哲秀氏は最後まで選挙戦を戦い抜くと宣言しており、にもかかわらず急きょ、安哲秀氏が候補を辞退したことで、裏切られたとの思いを抱く若者層も多かった。

 さらに安哲秀氏は候補を一本化したものの、尹錫悦氏と行動を共にし、尹錫悦氏支持を強く訴える姿勢も見せなかった。安哲秀氏が尹錫悦氏に対する投票を若者に強く訴えていれば、他候補に流れる票はより少なかっただろう。今後、国民の力と国民の党は統合していくことになるが、安哲秀氏にとっては、尹錫悦氏に恩を売り、交渉力を強くする機会を失ったともいえる。

 逆に、野党候補の一本化で危機感を抱いた与党陣営が、支持者の引き締めを強化したことで、与党の基礎票が動員されたことが接戦につながったのではないだろうか。世論調査結果の公開が禁止された後、李在明氏の支持を増やす要因が見当たらないことを考えると、与党系の投票率が高かったことが、接戦となった最大の要因のように思われる。

 尹錫悦氏は、10日未明、国民に向けて挨拶し、「国民統合を最優先に考える。政権交代はより良い国を作るためのものだ。私たちみんなが力を合わせて、心を一つにしてほしい」と呼びかけた。

 しかし、団結を一層強めた共に民主党は、尹錫悦氏にとって手ごわい存在となり、国民統合の大敵になりかねない。