文在寅政権下で企業の経営基盤が弱体化
新政権に求められる最重要課題とは

 韓国の国民、特に20代、30代の若年層、中間層の人々が期待するのは、夢を失った韓国社会の再構築である。

 合計特殊出生率が0.81と世界最低にまで下がったのは、若者にとって希望する就職が得られない、文在寅政権下で2倍となった不動産を購入することはあきらめざるを得ない、若い女性にとって社会進出の機会を失いたくない、子供の教育費負担に耐えられない、という韓国社会の厳しい現実を反映している。

 こうした、社会の不満に応えるべく李在明氏は、国民一人一人に100万ウォン(10万円)を配布するなどの財政バラマキを公約した。これに対抗して尹錫悦氏も子供の出産に対し1年間毎月10万円を支給する、徴兵された兵士の給与を引き上げるなどという公約を行った。こうしたバラマキ公約は両候補とも300兆ウォン(30兆円)規模に迫り、財政を圧迫しかねない。

 しかし、大統領選挙が終わり、より現実的な経済運営に移らなければならない。尹錫悦氏の基本的考えは、第4次産業革命を起こし、規制改革を通じ、民間主導で経済成長を促していく政策である。しかし、文在寅大統領が進めた経済政策によって、一部財閥系企業を除き、その経営基盤は弱体化しており、新規投資に及び腰になっている。

 文在寅政権の経済政策で企業活動の足を引っ張りそうなものは、最低賃金の強引な引き上げと今年1月から施行された重大災害処罰法である。

 文在寅政権下で労働生産性の向上がないまま最低賃金は41%引き上げられ、中小企業や自営業者は労働者の雇い入れが困難となった。その結果、失業者も増加した。コロナ感染拡大に伴う社会的距離を確保する政策で中小企業、自営業者の廃業が激増した。

 重大災害処罰法は、建設現場や工場などで死亡事故が発生した場合に経営者に懲役刑を科す厳しいものであり、外国企業も対象である。企業の新規投資を抑制することになりかねない。

 こうした文在寅政権の経済政策は、労働運動から政治活動化した、過激な労働組合・民主労総の意向を反映したものである。

 文在寅政権の経済政策を改革し、経済活力を取り戻し、製造業の強化を図るためには国会との協力は不可欠である。また、不動産政策でも新たな取り組みを行っていくために国会で法律を通さなければならない場面が出てこよう。

 しかし、共に民主党主導の国会は、尹錫悦氏が文在寅大統領の政策を変更しようとするときに協力するかは疑問である。尹錫悦氏としては、国民の支持をバックに改革していかなければならないが、今回の選挙での与野党の得票差は1%未満であり、過去のいかなる大統領選挙の時より少ない。尹錫悦氏としてはまず実績を積み上げ、権力基盤を強化せざるを得ない。