自由民主主義がベラルーシまで浸透すると、ロシア国内が危ない

 三つめの理由の、ウクライナにおける自由民主主義の浸透について、詳しく見てみたい。2014年以降、3度の大統領選が実施され、政権交代も起こった。政治制度改革も行われてきた(仲野博文『プーチンを暴走させた「ウクライナ・ロシア・ベラルーシ」の8年間の変化とは』)。プーチン政権にとって、ウクライナの民主化がロシア国内に広がっていき、政権を不安定化させる要因となるのが怖いのだ。

 その民主化がベラルーシに飛び火するのも恐ろしいことだ。アレクサンドル・ルカシェンコ大統領は「欧州最後の独裁者」と呼ばれてきた。だが、2020年8月の大統領選で、ルカシェンコ大統領が6選を果たした際、反政府側が投票に不正があったとして選挙結果の受け入れを拒否し、首都ミンスクなどで大規模な抗議活動が広がった。大統領側は、反体制の活動家や独立系メディアへの弾圧を強めたが、民主化運動は今も続いている。

 今後、民主化運動が勢いを増して、ルカシェンコ大統領が倒される事態となれば、ウクライナに続き、ベラルーシも自由民主主義陣営に進もうとするだろう。ロシアは、ベラルーシとウクライナの旧ソ連領だった部分まで失うことになる。

 NATOとの緩衝地帯をなくすだけでなく、ロシア国内への自由民主主義の浸透を止めることができなくなってしまうだろう。

 プーチン大統領が何よりも恐れるのは、世界中で自由民主主義を一度知った人々が、それを抑えようとするものに決して屈しようとしないという、見たくない現実だ(第220回)。

 だから、ウクライナ紛争でロシアが最低限譲れないのは、ウクライナはNATOに加盟しない「中立化」である。すでに、ゼレンスキー大統領は、「NATOには加盟できない」と発言しており、ウクライナ側はそれを受け入れる用意があるようだ。

 それでも停戦協議が進まないのは、ロシアがウクライナの「中立化」以上を要求し続けているからだ。要は、ウクライナの「無条件降伏」と「非武装」の中立である。

 ウクライナは「中立化」はいいが、「ロシア軍の撤退」による「ウクライナの独立」「ウクライナ国民の安全」は譲れない。要は、「侵略」という「力による現状変更」は絶対に認められないということだ(第298回・p3)。

 ロシアが、「無条件降伏」「非武装」の要求を取り下げればいいのだが、それができない。その理由は、突き詰めるとプーチン大統領の存在そのものに行きつくことになるからだ。