ウクライナへの武力侵攻を機に、欧米のIT大手によるロシア撤退が進んでいる。ロシア側も欧米発のSNSなどを遮断し、言論統制を加速させている。そうした状況下で、ロシアのインターネット空間は今後どうなるのか。アジアのITを専門とする筆者が、「IT鎖国の先輩」である中国の事例を踏まえながら予測する。(中国アジアITライター 山谷剛史)
ロシアによるウクライナ侵攻を機に
欧米のIT大手が相次ぎ撤退
ロシアがウクライナに武力侵攻したことで、欧米のIT大手がロシア事業を一時停止する動きが広がっている。Appleは「iPhone」などの販売を取りやめ、Googleは広告取引を中止。Microsoftも製品の販売を停止した。Oracleもロシアでの業務停止を発表し、IntelやAMDも半導体の販売を中断している。
一方、アジア企業では対応が分かれている。日本では任天堂やソニー、韓国ではSamsungやLGが出荷やサービスを停止したが、中国企業はロシア事業を継続するケースが多い。
中国の配車サービス「滴滴(DiDi)」は一時期、ロシア撤退がうわさされていたが否定した。ByteDanceは動画共有サービス「TikTok」において、動画の新規投稿やライブ配信を停止したが、これはロシアの新法「フェイクニュース法」に対応した措置だ。ウクライナ侵攻に抗議して撤退するわけではない。
また、ロシアでは中国のスマートフォンメーカーが高いシェアを持つが、今のところ各社に大きな動きはみられない。AppleやGoogleが撤退しても、ロシアでスマホが途絶えることはなさそうだ。
調査会社Canalysによれば 、ロシア市場におけるスマートフォンベンダーランキングは、1位からXiaomi(31%)、Samsung(27%)、Apple(11%)、Realme(8%)、Honor(7%)の順になっている。AppleとSamsungを除いた3社は中国企業なのだ。
今後も外国メーカーの撤退が相次いだ場合、ロシア市場は中国製スマホに依存することになるかもしれない。
スマホに搭載されるOSにおいても同様だ。つい先日も、Googleがロシアのスマホメーカー「BQ」へのサポートを打ち切ったと報じられた。ロシアのITニュースサイト「Gazeta.ru」によると、BQは今後、Huaweiが独自開発したAndroidアプリが動くOS「HarmonyOS」を導入するという。
中国が頼みの綱となりそうな状況だが、ロシアのIT・インターネット事情は今後どうなるのか。自国のネット利用を規制するとともに、欧米のIT大手が撤退した「IT鎖国の先輩」でもある中国の現状をもとに予測してみたい。