国際的危機において必要な
「リスク・シナリオ」

 これまで述べてきたように、ロシアによるウクライナ侵攻によって、企業活動にとっての外部要因による不確実性は、極限まで高まっている。当初想定していたウクライナ侵攻作戦の計画は破綻しており、戦線が膠着(こうちゃく)し、短期的な停戦合意も見通せない中で、プーチン大統領の今後の意思決定を予測することは難しく、蓋然性の低いリスクとその影響も考える必要がある。

 例えば、NATO(北大西洋条約機構)の軍事的介入や欧州への戦線拡大、核兵器や化学兵器等の大量破壊兵器の使用、原子力発電所への攻撃と放射性物質による汚染、ベラルーシをはじめ第三国の参戦など、さまざまな可能性への対応も検討しなければならない。

 こうした不確実性の高い状況において、企業に求められるのが、適切なインテリジェンスに基づいてワーストケースを想定し、リスク・シナリオの策定とリスク管理・危機管理計画を見直していくことである。つまり、予測困難な不確実性が高まっている中においては、現状想定し得る自組織にとっての最悪の外部環境の変化とは、どのようなものが列挙できるのかを網羅的に洗い出すことが必要だ。その上で、その影響はどのように、またどういった時間軸で発現するのかを分析し、対応を想定し検証することが求められる。

ワーストケースに基づいた危機対応が不可欠
企業に求められる「体制の強化方法」とは

 既に、多くの企業がロシアによるウクライナ侵攻の影響と今後の事業への影響の可能性を検討している。しかし、組織内の一部の担当者だけで、ファクトチェックを行いながら網羅的に情報収集を行い、さまざまなバイアスを排して客観的な分析をすることは困難だ。

 先にインテリジェンスの重要性を述べたが、情報の偏りや誤認、さまざまなバイアスはインテリジェンスの失敗をもたらし、不適切な意思決定に帰結してしまう。当社のような第三者機関を活用しながら、多面的にファクトベースの情報を入手し、先に挙げたような自組織として想定されるワーストケースを検証していくことが求められる。そして、検討したワーストケースシナリオに基づいた対応策を練っておくことで、想定したワーストケースに至らない場合であっても、発生したリスク事象に対して冷静に対応することが可能となる。

 ロシアによるウクライナ侵攻はマクロ経済に影響を及ぼしており、どのような業種・業態であっても、直接・間接を問わず、事業活動に何らかの影響が生じる。つまり、多くの日系企業は既に、組織としての危機下にあると言える。危機下においても事業活動は継続していく必要があり、企業価値の最大化を目指していかなければならない。

 言い換えれば、民間企業に求められているのは、危機下における有事対応と平時の業務が途切れなく接続されている体制だ。つまり「企業価値を最大化する局面・領域」と、「企業価値の損失を最小化する局面・領域」を明確化し、状況に応じて迅速に平時と有事の対応を切り替えられるようにする必要がある。