企業も「社会的影響力」を自覚し
事業活動へ反映すべし

 ロシアによる軍事侵攻に対しては、G7諸国やEUを中心に対露経済制裁の強化・導入が迅速に調整され、ウクライナへの軍事侵攻を開始したロシアに代償を科すためにも、国際経済システムからの切り離しが進められている。対露経済制裁の強化により、冷戦期のような東西の間の経済的ブロックが形成されつつあるとの見方もある。

 しかし、現在ロシアが置かれている状況は、社会主義というイデオロギーからソ連を支持する一定の国家群と、ソ連傀儡(かいらい)の東側諸国が存在した冷戦期とは大きく異なっている。現時点において明確にロシアを支持する国家は、国連総会決議を見ても、ロシア以外で反対票を投じたベラルーシ、北朝鮮、エリトリア、シリアの4カ国のみである。中国も拒否権を有する安保理決議と国連総会決議のそれぞれにおいて反対票は投じず棄権しており、明確にロシアのウクライナ侵攻そのものを支持しているわけではない。

 仮に、プーチン大統領の言葉の通り、ウクライナのゼレンスキー政権が「欧米の傀儡(かいらい)」の「ネオナチ政権」であり、ウクライナのNATOへの加盟方針がロシアの生存圏を脅かす安全保障上の重大な脅威であったとしても、その解決は外交交渉の場で行わなければならない。しかも、武力を用いた現状変更は現代国際社会においては認められていない。

 大国間の利害と軍事的行動に規定された19世紀の世界とは異なる現代の国際規範の中で、ロシアのプーチン政権の主張が現代国際政治において広く支持され、受け入れられることは考えにくいだろう。したがって、ロシアが経済的に対中依存を強めることはあっても、冷戦期のような2大ブロックにより構成される経済体制が、短期的に形成されることは考えにくい。

 第二次世界大戦の終結以来、国際社会は国際規範を強化し、その対象と役割を拡大させてきた。そして、冷戦の終結により資本主義化と自由貿易の波は、東側諸国を実質的にのみ込んだ。その結果、軍事力を用いた一方的な侵略や現状変更の蓋然性は、低下したかのようにみられていた。

 ロシアによるウクライナへの侵略行為は、21世紀の現代国際秩序からは大きく逸脱している。まるで、周辺の中小国を力によって従わせた20世紀のソ連や、19世紀の大国間政治の時代に逆戻りしたかのように見える。

 他方、20世紀や19世紀と異なる点の一つとして、民間企業の国際政治におけるアクターとしての重要性の増大がある。つまり、企業も国際・国内社会における重要な影響力と役割があることを自覚し、国際政治情勢と地政学的リスクの影響を前提に、事業活動のあり方を検討することが、より一層求められている。

 次回以降、地政学的リスクとサイバー、米中・中台問題についても順次取り上げていく予定である。サイバー攻撃リスクに頭を抱える企業や、台湾有事が事業活動のリスクとなる企業の皆さまにお役立ていただければ幸いである。