バブル崩壊後の経済政策の失敗
公共事業を積み増し、金融緩和を継続

 経済格差が拡大した主たる要因の一つとして、わが国の雇用形態の変化は大きな負の影響をもたらしている。かつては正規雇用(正社員)として企業に就職し、定年まで勤めることが当たり前だった。しかし、1990年代に入ると正規社員が減り、非正規社員が増えた。非正規社員の雇用・所得環境は一段と厳しさが増した。

 背景には大きく4つの要因がある。まず、90年の初めに株価が急落し、その後に不動産(土地)価格も下落して資産バブルが崩壊した。急速な資産価格の下落によって不良債権問題が深刻化した。その結果、企業は新しいことに取り組んで需要を生み出すよりも、リスクテークを過度に恐れて既存の事業運営体制を守る心理を強めた。不良債権処理は遅れ、97年には金融システム不安が発生した。わが国経済は長期の停滞に陥った。

 二つ目として、バブル崩壊後の経済政策の失敗がある。本来、大規模な構造変化が起きた場合、政府は時代に合わなくなった規制などを見直し、成長期待の高い分野に生産要素が再配分されやすい環境を整備しなければならない。それが構造改革の本質だ。しかし、政府は97年度まで公共事業を積み増し、その後は緩和的な金融政策を継続した。そうしてバブルの後始末と新しい産業の育成が難しい状況が続いた。

 三つ目に、中国は工業化を推進して高い経済成長を遂げた。その結果、わが国に安価なモノが供給されるようになった。国内経済の低迷も重なって需要は伸び悩み、一時、デフレに陥った。さらに、グローバル化の加速によって国際分業体制が強化され、本邦企業の競争力が低下した。

 その結果、わが国企業の業績拡大は難しくなった。四つ目として、経営者はコスト削減のために正社員を減らし、非正規雇用者が増加した。一般的に、非正規雇用者の給料は同じ仕事をしていたとしても正規社員を下回る。そのため、緩やかに景気が持ち直しても、役員を除く雇用者の約4割を占める非正規雇用者の給料は増えず、経済格差が拡大している。