成長率の低下と物価上昇が同時に進む
資源を輸入に頼るわが国への逆風

 今後、経済格差はさらに拡大することが懸念される。現在、わが国の経済成長率が低下することへの懸念が強い。

 コロナ禍によってインバウンド(訪日観光)需要は蒸発したままだ。飲食や宿泊などの需要がコロナ禍前の状態に完全に戻るかはわからない。バブル崩壊後のわが国経済を実質的に支えてきた自動車産業は、EV(電気自動車)シフトという逆風に直面している。

 さらに、ウクライナ危機によって世界経済は緩やかな経済成長率と低物価が同時に進む環境から、成長率の低下と物価上昇が同時に進む環境へとパラダイムシフトしている。資源を輸入に頼るわが国への逆風はこれまで以上に高まる。

 国内では少子高齢化と人口減少によって縮小均衡する。生き残りをかけてリストラを実行するなどし、コスト削減を優先しなければならない企業は増えるだろう。非正規雇用者やひとり親世帯を取り巻く経済環境の厳しさは増す。

 政府は、困窮する世帯への支援を迅速に実施し、国民が安心・安全に生活できる環境を実現しなければならない。そのために、行政のデジタル化は迅速に実行されるべきだ。それは母子家庭などに、適切なタイミングで必要とされる支援を実施するために欠かせない。

 その上で、効果の発現に時間がかかる構造改革を進めなければならない。特に、労働市場の改革を進めて流動性を高め、先端分野への労働力の再配分を加速させることは待ったなしだ。正規・非正規の格差を解消するために、同一労働同一賃金に取り組む企業が増えるよう、産業界へのインセンティブ付与も検討されるべきだ。

 再チャレンジできるよう学び直し(リカレント教育)や職業訓練の制度を強化することも喫緊の課題だ。格差の固定化や、さらなる拡大を食い止めるため、政府は労働市場の構造改革など、これまでにも指摘されてきた課題の解決に真正面から取り組まなければならない。