特に気をつけなくてはいけないのは、退職金や老後資金を少しでも増やさなくてはと思い、60歳を過ぎて初めて投資をはじめるケース。私はこれを「退職金運用病」と呼んでいるのですが、これにかかると、金融商品の仕組みを理解しないまま、勧められた商品に投資をしてしまう傾向があります。

 超低金利の状況下で、お金を安全かつ確実に増やす方法は残念ながらないのですが、失敗を避けるコツを知っておけば、大事な老後資金を目減りさせないことが可能です。一緒にポイントを見ていきましょう。

金融機関には「売り手の事情」が
あることを知っておく

 投資商品は20年くらい前なら「証券会社で買うもの」でしたが、最近では銀行や郵便局が積極的に販売するようになっています。みなさんも銀行から資産運用を勧められた経験があることでしょう。

 銀行や郵便局が投資商品を手がけるようになったのには、理由があります。金融機関、特に銀行と上手に付き合っていくうえで、銀行が抱える「事情」を知っておくことが大切です。

 従来、銀行のビジネスモデルは、「預金を集め、集めたお金を企業や個人に貸し出したり、国債を買って運用したりして生まれる預金との利ざやが収益」というものでした。

 しかし、最近は状況が変化しています。大企業は銀行以外で資金調達する手段が増えていますし、個人向けの住宅ローンは、低金利競争が激化しており、大きな利益は見込めません。国債で運用しても、マイナス金利の政策下では収益は見込めません。従来のビジネスモデルでは、赤字になってしまいます。

 一方、投資信託や保険を販売すると、銀行は投資信託会社や保険会社から手数料が受け取れます。料率は商品にもよりますが、販売金額の2~3%。銀行にとってみると、投資信託や保険を販売するのは、住宅ローンを貸したり、国債で運用するより、確実で有利なビジネスとなります。

 こうした「変化」と「事情」から、銀行は投資信託や保険販売に力を入れるようになったのですが、銀行の販売担当者は実は投資経験が豊富とは限りません。さらに顧客の事情に合った投資アドバイスができる担当者はまだ育っていないのが実状だと覚えておきましょう。

 初めて投資をする人は「自分で商品を選べない。誰かに選んでほしい」と考えて金融機関に相談しますが、売り手に任せると「売れ筋の商品」を勧められることになります。少し勉強したうえで、自分が欲しい商品を売っている金融機関に出向く。このスタンスが大事です。