「戦争における勝利」に近づくウクライナ

 こうしたロシア側の戦術重視、作戦や戦略軽視という弱みを突いているのがウクライナだ。ウクライナ側は個別の戦闘における善戦――戦術や作戦レベルでどうなっているは判断がつかないが――を重ねているのは事実のようだ。ここで注目すべきなのは、トルコ製やウクライナ国産の武装ドローン、民生品改造ドローンによって、ロシア軍の兵站を破壊していたことだ。これらは夜間に低高度で侵入し、ロシア軍の野戦防空を破砕もしくは迂回(うかい)し、ロシア軍の兵站を破壊することでロシア軍の進撃を停止させ、その軍事的勝利の実現を妨害した。

 英タイムズの報道によれば、民生改造の武装ドローン部隊がロシア軍の車列の先頭をゲリラ的に夜間に破壊し続け、あの65kmもの大渋滞を作り上げたという。そして、それによって稼いだ時間とその戦果映像で西側の大量の武器供与も引き出し、ついにキーウからロシア軍を追い返した。

 一方、ウクライナ側はゼレンスキー大統領や政府がSNSを駆使して、歴史の韻を踏んだ効果的な演説、PR動画、各地で善戦するウクライナ軍の雄姿や戦果、ロシア側の非道な攻撃を巧みにアピールしている。

 特に、ドローンによって善戦するウクライナ軍の戦果やロシア軍の破壊を撮影し、それをSNSで拡散させたことで国際世論を動かしつつあることは注目に値する。開戦直後にドイツの高官は救援を求めたウクライナの大使に「48時間以内に消滅する国にできることはない」と無下にしたとの報道があったが、そこからここまでウクライナは情報戦で巻き返したのだ。

 これは全て、西側からの支援と協力を引き出し、国内の戦意を保ち、それによってロシアを戦場もしくは経済的な消耗戦で追い込む「戦争における勝利」を狙っているように見て取れる。

 少なくとも戦争研究の観点からは、ウクライナはロシア軍の物量に市民を含む多くの被害を出しながらも、戦略・政治レベルでは目的に向かって着実に進んでいる。つまり、ドローン戦などによってロシアの「軍事的勝利」を遅延させつつ、「戦争における勝利」に近づいているように思える。

 もちろん戦争は何があるかわからない。クラウゼヴィッツが戦争とは「賭け」であると指摘したように、不確実性こそ戦争の本質だ。しかし、今の状況は、「軍事的勝利」に力押しで突き進むロシア、他方「戦争における勝利」へと複数の戦術を組み合わせる作戦術で戦略目標に着実に迫るウクライナ、という構図と評価できよう。これはロシアがキエフ攻略を放棄し、まずは東部奪取に専念する方針に転換した今も変わらない。