世間の反応
吉野家に対して食欲を後退させる人たち

 「シャブ漬け」という表現はどう考えてもよろしくなかった。吉野家は牛丼の飲食チェーンであり、体に摂取するものを提供する企業である。そして“シャブ”(覚せい剤)も同様に摂取するものであり、「摂取するものつながり」で牛丼と“シャブ”は脳内で自然に関連づけられ、あたかも吉野家の牛丼に“シャブ”が入っているかのようなイメージを、消費者は抱いた。飲食チェーンとしては致命的なマイナスである。
 
 ネットを見てみると、女性蔑視発言を抜きにしても、その点を気持ち悪がる人は多く、「今後吉野家にだけは絶対行かない」「吉野家、松屋、すき家が並んでいたら、吉野家は選択肢から外れる」といった声が見られた。
 
 続いて女性蔑視については、当然ながら怒りの声が多くみられた。特に女性は「馬鹿にしている」「『そんなふうに思われる』と思いながら、吉野家を利用する気には到底なれない」と感じているようである。順当な反応であろう。筆者の影響で吉野家推しとなった妻に「まだ吉野家に行きたいと思うか?」を問うと、「否、行きたいと思わず」と回答した。
 
 吉野家フリークの筆者は、今回のことが原因で吉野家を食べる機会が少なくなりそうなことを惜しく思った。しかし、苦境の吉野家を応援する気持ちで今まで以上に吉野家に足を運ぶつもりになるかといえば、残念ながら、そうはならない。その理由は、吉野家が不潔に感じられるようになってしまったというのもあるが、現在の世論に色濃くある“反・吉野家”の空気に当てられているのもある……と見ている。
 
「シャブ漬け発言」の伊東氏はまさかここまで事態が大きくなるとは思ってもみなかったであろうが、諸方面に与えた影響は甚大である。

なぜ教室で笑い声が起きたか
同席と不在の大きな差

 役員を解任された伊東氏はマーケティング業界隈の有名人だったそうで、他社数社の社外アドバイザーを務めるなどエリートビジネスマンであった(今回の失言で数社から契約を解除されたと報じられている)。

 おそらく覇気に満ちた人物であり、話も上手であったと推測される。だからこそ出た「シャブ漬け発言」であり、「教室で笑いが起きた」のである。パンチを利かせたジョークは聴衆を話に引き込む効果がある。
 
 覇気のある人物とは魅力的であり、人は相対した人に同調・共感したい習性があるから、目の前で話す講師が魅力的な気配とくれば、「シャブ漬け発言」も“相当攻めたジョーク”くらいで受け止められて終わる公算が大きい。

「教室で笑いが起きた」は「教室で笑った人たちの常識が欠如している」とイコールではないだろう。「人の気持ちの方向性が決定づけられる際、その場の諸要素や雰囲気が大きく作用する」ということではないか。さらに付け加えるなら、少なくない数の受講者はドン引きしなかったようなので「現代日本のジェンダー意識の進捗具合はそれくらい」ということも示している。