無謬性神話から脱却して、アジャイルで政策を形成し、評価するというのは非常に難しい。しかし牧島さんは、「コロナ禍でアジャイルのモデルケースができた」と語る。ワクチン接種記録システム(VRS)によって接種状況が可視化され、実際の数字と現場の声を掛け合わせ、柔軟に改善を図ることができたという。こうした動きは、霞が関のみならず、企業のDXにも一石を投じるもののように思う。

ある地方自治体の
行政パーソンの胸の内

 牧島さんの話に深く共感する人がいた。

 民間企業から、ある地方自治体のIT担当者に転身したAさんは、一歩引いた目線で「間違いがないことは、行政パーソンが一番大事にしていること。理念に近い」と語る。一方で、IT担当者として何かを変えようとすると、その無謬性が足かせになることがあるという。Aさんは「中の人」になって初めて、行政パーソンが抱える苦しさを知ったという。

 まず、着任して早々、Aさんは驚いた。仕事で使うパソコンから、直接インターネットに接続できなかったのだ。