自治体がインターネットに
つながらなくなった理由

 これは、2016年に始まった「三層の対策」(三層分離)に起因する。三層の対策とは、2015年、日本年金機構が不正アクセスを受け、個人情報の一部が流出した事件を機に、総務省の要請によって進められたセキュリティ強化策だ。自治体のネットワークを、通常業務で使用するLGWAN(総合行政ネットワーク)接続系、マイナンバーに関わる業務を行うための個人番号利用事務系、インターネット接続系の3つに分離し、セキュリティを高めるといったアプローチだ。

 狙い通り、インシデント数は大幅に減少した。しかし、全国約1700の自治体のほとんどが、業務端末から直接インターネットに接続できなくなり、業務効率の低下につながってしまった。

 2016年といえば、世間では若年層のスマホ保有率が8割を超え、クラウドも当たり前の時代にシフトしていた。そんな中、自治体はインターネットからある意味切り離され、情報収集したくても、手間がかかるようになってしまったのだ。

 三層の対策は、2020年に総務省が見直しを表明したものの、各自治体に深く影響が残っている。今は、世界中で何十億人が使うアプリと、行政のアプリのUI/UXが同じ土俵で比べられてしまう時代だ。行政パーソンもそれをひしひしと感じている。しかし、多くの自治体は、直接インターネットに接続できないがゆえ、クラウドサービスの利用に制約がかかっている状態。UI/UXを改善する以前に、自分たちが優れたサービスを使って、「今どきのワークスタイルとはこういうものだ」と実感するのも難しいのが実情なのだ。

 Aさんは、「インターネット接続の課題が改善されない限り、自治体のDXは進まない」と語る。いくら民間から新しい風を入れ、改善に動いても、技術的な制約によって早々に足止めをくらってしまう。これは、どの自治体にも共通する課題だ。それに、「インターネット」を他に置き換えれば、多くの企業で同じような現象が起きているのではないだろうか。