ミスをすることが、
なぜこんなにも重いのか

 AさんがIT担当者として初めに着手したのは、メールの誤送信対策として続けてきたPPAP(パスワード付き圧縮ファイル)と送信遅延の廃止だった。

 次にAさんは、Bcc強制変換を廃止しようとした。Bcc強制変換とは、宛先に大量の外部宛てメールアドレスを指定した場合、強制的に「Bcc」(ブラインドカーボンコピー。複数の利用者宛にメールを同時送信する際、受取人以外の送信先メールアドレスを伏せること)に自動変換する機能のことだ。誤送信や個人情報漏えいを防ぐために導入している自治体は多いのだが、受信側は、返信の際に一つ一つメールアドレスを入れ直す必要があり、かなりの手間がかかっていた。

 Aさんは、Bcc強制変換の廃止も受け入れられるだろうと思っていた。しかし、役所内からは「個人情報の保護を優先すべきだ」という声が上がった。自分たちの利便性向上よりも、セキュリティや個人情報保護を優先する背景には、「ミスによって市民からの信頼を失ってはならない」という責任感が垣間見えた。改革には、そこで働く人たちが大切にしてきたことへの共感やリスペクトが必要だ。Aさんにとってはこれが、行政パーソンが何を大事に業務に取り組んできたかを最初に実感した出来事だったという。

「民間企業として自治体と仕事をしてきたので、自治体の働き方、考え方についてそこそこ理解しているつもりでした。しかし、この一年で、何も分かっていなかったということがよく分かりました。本当のところは、中に入ってみないと分からないものですね」(Aさん)