選別される生保・損保・代理店#21Photo by Yoshihisa Wada

第一生命保険で2020年10月に発覚した元営業職員による金銭詐取事件。その後同社では「経営品質刷新プロジェクト」を立ち上げ、コンプライアンス態勢の向上に努めてきた。特集『選別される 生保・損保・代理店』(全28回)の#21では、稲垣精二社長はこれまでの取り組みをどう評価しているのかについて話を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 藤田章夫、片田江康男)

19億円金銭詐取事件発覚から1年半
7月から新たな営業職員制度を実装

 2020年10月に発覚した、山口県周南市の第一生命保険元営業職員(生保レディー)による、19億円超に及ぶ金銭詐取事件。生命保険業界だけではなく、社会に大きな衝撃を与えたこの事件をきっかけに、生保各社の営業職員チャネルのコンプライアンス向上が、業界内の一大テーマとなった。

 生命保険協会は、業界42社のうちの1社が起こした、あくまで個社特有の事案という整理をしている。だが、19億円超という、これまでにない巨額の金銭詐取事件は、生保業界全体の信頼失墜へと結び付きかねない。そこで生保協会は、営業職員チャネルを運営する生保会社を対象に、社内の管理手法などを調査する大規模なアンケートを実施し、さらにそのフォローアップアンケートを行い22年4月に報告書を公表するなど、事態沈静化へ向けて対応を急いでいる。

 当事者である第一生命は、事件発覚直後の20年12月、稲垣精二社長自らが本部長として指揮を執る「経営品質刷新本部」を設置。21年1月末から2月中旬にかけて全社員アンケートを実施したり、21年5月から7月にかけて全役員が主催者となってタウンホールミーティングを計56回開催したりするなど、改革を進めてきた。

 そして22年7月には、新たな営業職員制度を導入する。不祥事発覚前から準備していたもので、教育や評価・給与制度が大きく変わる。

 とりわけ新たな営業職員制度は、これまで行ってきた一連の改革の成否を分ける鍵となるだろう。

 営業職員が入社後に受ける「初期教育期間」は、従来の4カ月間から1年間に拡充。さらに入社後2~3年目までを「育成期間」、4~5年目を「飛躍期間」とし、6年目以降を“一人前”とするように改めた。

 従来の給与制度では、「月例給与」は新規契約獲得の成績によって得られる「成果給」の比率が高かったため、月額の給与総額は大きく変動していた。

 それを飛躍期間が終わる5年目までは月例給与をほぼ固定させ、さらに月例給与を従来比で約40~80%増加させる。新規契約獲得の成績によって得られる給与は、年4回の「営業実績ボーナス」として支給されるという。

 これによって、月によって大きく変動していた給与総額は以前よりも安定し、額自体もアップする。

 生保各社は、顧客や社会、金融当局から厳しい選別の視線を向けられている。複数の金銭詐取事件が発覚した第一生命には、とりわけ厳しい視線が注がれている。

 稲垣社長はこの1年半、針のむしろに座る思いで企業風土や制度面の改革の陣頭指揮を執ってきた。自社の現状をどう認識しているのか。次ページでその内容をお届けする。

ハード面とソフト面の改革を進める
営業職員は投資するエリア

――生保各社は顧客や社会などから、さまざまな点で厳しく選別されています。その中でもコンプライアンス問題は最も重要なものだと思います。2020年10月に金銭詐取事件が発覚してから、改革を進めてきましたが、第一生命はどこまで変化したのでしょうか。

 しっかりとしたコンプライアンス体制があることは、お客さまの信頼感をつくっていくための大前提だと考えています。

 20年10月に発覚した事件は、その信頼感を根底から揺さぶるものでした。そこで20年12月に経営品質刷新プロジェクトを立ち上げました。