漁場の変化で「大間まぐろ」の定義に課題
“陸送”疑惑も浮上

 実は、産地を決定づける水揚げ場所がどこかという問題とは別に、「マグロが捕れる漁場はどこか」というもう一つの要因にも問題が生じている。

 商標「大間まぐろ」は、2007年6月1日に登録された大間漁協を権利者とする地域団体商標だ。商品としては「青森県下北半島大間沖で漁獲されるまぐろ」を指す。当時は、眼前の津軽海峡で捕れるマグロが多かったからそんな定義でもよかった。

 しかし、最近、マグロが釣れる場所は太平洋側に移っているので、厳格に運用すれば大半が「大間まぐろ」と認定することが困難となる。青森県漁連は「大間以外のマグロの出荷が増える」と説明するが、厳格に運用すれば、大間の商標を使えないことを漁協関係者は知っていて、「大間まぐろ」の商標ラベルを発給し続けた疑いがある。

 筆者が入手した大間漁協の2021年12月期の業務報告書によると、当期損益は6000万円の赤字で、今期への繰越欠損金は2億3000万円超となった。業績低迷の原因として「スルメイカの漁獲不振、クロマグロ資源管理に伴う収入減少」などを挙げている。

業務報告書筆者が入手した大間漁協の業務報告書
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「大間まぐろ」として売れば、他のブランドより高い値段で取引される。地域団体商標の指定内容からずれたマグロに関して、漁協が「大間まぐろ」として出荷したいと考えても不思議ではない。

 漁協を監督する青森県に尋ねると、「県は個体別に漁獲漁場の報告を受けていないため、漁場と商標の示す内容が合致しているかどうか確認できない」(白取尚実・水産振興課長)と断りつつ、こんな答えが返ってきた。

「津軽海峡を抜けた太平洋側で漁獲されたマグロに『大間まぐろ』のラベルを貼付していることが事実であれば、問題がある」

 前任者の死去を受けて今年3月に就任したばかりの大間漁協の小鷹勝敏組合長にも聞いたところ、「大間まぐろの定義は見直したいと思っている。どのくらい時間がかかるか分からないが、検討を進める」という。

 ただ、地域団体商標の見直しは、新しい商標を作るのと同じくらい時間がかかるといわれていて、夏に始まる今年度のマグロ漁には間に合わない可能性が大きい。その場合、今年1月末から2月に登場した太平洋沖北部や他県名を原産地として表示するマグロが多くなり、回転ずし業界を含めて「大間まぐろ」を仕入れたいという流通業界からのリクエストには応えきれなくなることも予想される。

 漁場の縛りがあやふやになると、水揚げ場所の確認もおろそかになる。現に、岩手県など遠隔地からトラックで大間に陸送されてきたマグロも、大間の漁業者が釣ったものである限り「大間まぐろ」となっている疑いがある。

 他の場所の漁協や市場を利用して水揚げすると、「大間産」を表示できなくなってしまうため、漁協や市場を使わず自力でマグロをトラックに積み替え、大間に運ぶという業者の存在がささやかれているのだ。

 その点を尋ねたところ、小鷹組合長は「トラックで陸送? 就任したばかりで実情をよく知らないが、私は聞いたことがない」と口を濁した。職員や漁業者に尋ねても回答を拒む人が多い。

 定義の見直しを始めるに当たって、大間漁協はこれまで水揚げ地をどのように確認して「大間まぐろ」の商標ラベルを貼ってきていたのか、きちんと説明する責任を果たす必要があるのではないだろうか。