「今日の売り場に並んだ大間のマグロ。どうも水揚げしたのは別の場所らしいといううわさが流れている」――。

 昨年12月下旬のある日、豊洲市場のマグロ仲卸業者から筆者に情報提供があった。前日の夜には別の筋から「岩手県で水揚げしたと思われるマグロが『大間まぐろ』として豊洲市場に出荷される」との情報も届いていた。

 三陸の漁師のツテを頼って調べてみたところ、確かにその船は岩手県内のある漁港にいた。もう1隻、同じタイプの漁船と並んで岸壁に停泊している写真も手元に届いた。

 このため、2件の情報提供はかなり信ぴょう性が高いと判断。豊洲市場に出かけて、そのマグロを販売した大手水産卸の役員に面会し、「産地を念のため確認した方がよいのではないか」と伝えた。続いて、豊洲市場の運営・管理にあたる東京都の豊洲市場事務所にも行き、同じ申し入れをした。そしてその確認の結果を待った。

 漁業者には私から直接電話をしたが、応対した女性は「マグロの出荷は漁協に任せている。漁協に聞いてほしい」というばかりだった。大間漁協に質問を送ったものの、回答はなかった。

大間以外が原産地のマグロが“登場”したワケ
現状ではチェック体制に限界も

 改めて卸売会社と東京都の豊洲市場管理部門に問い合わせたところ、卸売会社は出荷者に原産地の確認をしたかどうか「営業に関わることなので回答できない」という。東京都は卸売会社から送り状を提出させ、チェックしただけだった。

 伝票の上では大間産で、産地から荷を受けてセリにかける市場の側からは、形式が整っている限り疑ったり、受託を拒んだりできないという趣旨の説明を東京都から受けた。それが卸売市場の使命だというのだ。したがって、豊洲の仲卸業者らが怪しんだ大間からのマグロの産地や水揚げ場所はどこなのか、真相は今日に至るまでヤブの中だ。

 何回か質問を送った末に、漁船の船頭から「(12月の)マグロは(津軽)海峡で捕った」とする説明を電話で受けたが、水揚げ場所や船が岩手県内にいた理由などを問うても、残念ながら答えは得られなかった。

「しっかりした証拠がなければ、問い合わせするなど論外だ」といわんばかりの東京都や卸売会社の姿勢には正直なところ失望した。しかし、この出来事の後、豊洲市場での産地確認が厳しくなったのは間違いなさそうだ。

 取材を続けると、東京都は昨年12月30日、水産卸売業者の団体を通じてマグロを扱う卸各社に対し、「産地偽装を疑う情報提供があった。産地確認を徹底するように」と注意喚起していたことが分かった。

 正月休み明けの1月5日の初競りで一番マグロが産地偽装マグロだったりすると、間違いなく豊洲市場を揺るがす大事件になる。そんな心配もあったのかもしれない。卸各社のマグロ担当者も緊張したことだろう。

 こうした豊洲市場の警戒、緊張は大間にも当然伝わる。太平洋北部や福島といった原産地が表示されるようになった背景には、東京都の注意喚起、産地偽装への監視強化があるとみておくのが自然だと思う。青森県漁連幹部も、「産地表示が大間以外のマグロの出荷は増えていくだろう」と話す。