韓国で尹錫悦氏が新大統領に就任した。インフレの高進、通貨安に見舞われている中、中国経済減速による景気への下押し懸念も生じている。発足直後の新政権の経済政策のかじ取りは容易なものではない。(第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 西濵 徹)
足元で感染傾向改善
コロナ禍の影響は一巡か
韓国では今月10日、3月に実施された大統領選において保守政党である「国民の力」から出馬して勝利した尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏が正式に大統領に就任した。
ここ数年の韓国経済においては、文在寅(ムン・ジェイン)前政権が主導した「所得主導成長論」に基づく社会実験的な政策運営が取られてきた。
最低賃金の大幅な引き上げや強制的な労働時間の短縮といった施策は、企業部門にとって大規模なコスト増を招くとともに、生産性を巡るギャップを拡大させるなど同国経済の足かせとなった。
さらに、政権後半にはコロナ禍が景気に冷や水を浴びせた。文在寅政権はコロナ禍対応としてIT技術と個人情報を駆使して防疫対策や感染経路を調査する「K防疫」を展開したものの、年明け以降の同国では感染が再拡大して過去の波を大きく上回る事態となり、行動制限の再強化を余儀なくされた。
なお、足元では感染動向が改善に向かっている上、ワクチン接種の進展も追い風に行動制限は緩和されており、人の移動も底入れが進んでいる。よって、尹新政権の発足に当たっては、コロナ禍の影響は一巡しつつあると捉えることができる。
ただし、尹新政権の船出はかなり厳しいものとなることは避けられそうにない。大統領選では尹氏が勝利を収めたものの、選挙戦では各候補の親族を巡る問題が発覚したことで中傷合戦が繰り広げられる泥仕合の展開が続き、政策論争が一向に深まることなく終了した。
事実上の一騎打ちとなった左派政党である「共に民主党」から出馬した李在明(イ・ジェミョン)候補との得票率の差は1ポイント未満と過去の大統領選と比較して最も僅差となるなど、国民の分断が広がっている様子がうかがえる。
そして、国会では左派政党である「共に民主党」が多数派を占めており、与党は少数派である「ねじれ状態」となっており、政策運営を巡って国会との対立が避けられない状況にある。よって、足元の韓国経済は課題山積の状況に直面しており、円滑な政策運営のハードルは高いのが実情である。