違法な点というのは、横浜地裁が公判前整理手続きで「同罪は成立しない」との見解を示していたのに、判決では一転して成立を認定したことを指す。

 東京高裁は「石橋被告や弁護側に対する不意打ち。判決に影響を及ぼす違法な手続きだった」と指摘。同罪が成立する可能性を示唆した上で主張・立証の機会を設定すべきだとして、やり直しを命じたということだ。

石橋被告は好青年を演出し
事故原因はトラックと主張

 そして再開された今年1月27日の横浜地裁差し戻し初公判。石橋被告は罪状認否で「事故になるような危険な運転はしていない」と前回と同様、無罪を訴えた。弁護側はトラックの運転手がワゴン車に気が付かなかったことが事故の原因だとして、危険運転致死傷罪には問えないと主張した。

 石橋被告の主張は変わらなかったが、前回の公判とは二つの大きな点が異なった。一つは前回、石橋被告がジャージー姿でふてくされたような態度だったのに、スーツ姿でネクタイを締め、検察官の起訴状朗読などでも直立不動と「お行儀が良かった」ことだ。言うまでもなく、目的は裁判員への心証を良くするためのアピールだ。

 もう一つは、前回は弁護側が危険運転致死傷罪は成立しないという見解を強調したが、今回は(1)追突したトラックが走行を禁止されている追い越し車線で、制限速度を上回る90キロ以上で走行、(2)車間距離も約20メートルしか取っていなかった――として、夫婦が死亡したのは石橋被告のあおり運転が原因ではなく、トラック運転手の無謀運転が原因と強調したことだ。

 石橋被告の弁護側は、これまでの「危険運転には該当しない」という主張に加え、戦術として「好青年の被告」を演出し、新たに「責任はトラック運転手」というそもそも論の争点をつくり出したわけだ。