たとえば、プレゼンテーションのテクニックで、伝えるポイントを3つに絞り込み、最初にそのポイントを簡潔に伝えるというものがあります。

「仕事のミスをなくすポイントは3つあります。ひとつ目は……」といった具合です。もしもこれが、「仕事のミスをなくすポイントは7つあります。ひとつ目は……」と言われたらどうでしょう? 3つであれば楽に聞けるのに、7つだとちょっときつく感じるでしょう。

 このように考えてみれば、ワーキングメモリの容量が4±1というのは当たらずとも遠からずというところでしょう。

「確実に覚えた」と感じても
それは大きな錯覚

「これは大事なことだから覚えておこう」と注意を向けることで、情報をつかみつづけることは可能です。たとえば、前回の「上司の木下課長」の話でも、「高橋工業、高橋工業、忘れるな俺」とつぶやきつづけていれば忘れることはないでしょう。

 しかし職場では新しい情報がひっきりなしに入ってきます。ですから実際にはいくら注意を向けていても、不意に新たな情報が入ってくると脳は新しい情報に注意を向けてしまい、古い情報である「高橋工業」をパッと手放してしまいます。

 徐々に忘れるなら「やばい、そろそろ忘れそうだからメモしておこう(または先に片づけておこう)」と対策が打てますが、突如、忘れてしまうので扱いが面倒なのです。

 簡単に忘れてしまうなら最初から過信しなければいいのですが、注意を向けて「腕」でしっかりつかんでいる間は「確実に覚えた」と強い実感が湧きます。その感覚は、あなたが長期記憶として覚える記憶の「覚えた」感覚と変わりません。

 だから錯覚するのです。

 そしてこれこそ、「さっきまではっきりと覚えていたのに、いつのまにかド忘れしていた」というミスが起きるメカニズムです。