インターネットの「知の巨人」、読書猿さん。その圧倒的な知識、教養、ユニークな語り口はネットで評判となり、多くのファンを獲得。新刊の『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』には東京大学教授の柳川範之氏が「著者の知識が圧倒的」、独立研究者の山口周氏も「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せるなど、早くも話題になっています。
この連載では、本書の内容を元にしながら「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に著者が回答します。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。(イラスト:塩川いづみ)
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら
[質問]
プログラマーとして集中力と問題解決力が足りない
ブログ、書籍、拝読させていただいています。
さて、自分は曲がりなりにもプログラマーですが、集中力は5分も保たず、問題解決能力は他のプログラマーより劣っていると感じることが多々あり、そして空想癖が酷いです(物語をよく考えてます)。
自分の知識量や読書量、はたまた教養もあるのかもしれませんが、集中力や問題解決を早くしたりするのは、やはりそういう環境下に長い間居ないと身につかないのではないかと諦めかけています。
そうじゃないと私個人は思いたいですが、身勝手ですが背中を押していただける指摘か、もしくはバッサリ「お金をためて大学にでも進学してください」と仰っていただけると幸いです。
読書猿も、すぐに気が散るタイプです
[読書猿の解答]
脳には、外界の対象への注意や概念操作などを行う際に活動する中央執行系ネットワークcentral executive network (CEN)と、これと入れ替わりに活動する、つまり特に何もしていない安静時脳活動の主役となるデフォルトモードネットワークdefault mode network (DMN)というものがあります。
この入れ替わりは大体15分ほどで起こるようで「人間が集中できるのは15分間だ」みたいな話のベースになっています。
さて、このデフォルトモードネットワークの役割は調べるのが難しく(例えば何か課題を与えて脳活動を調べようとするとCENが出張ってきて肝心のDMNが引っ込んでしまう)、当初は何をしてるか分からなかったのですが、後に物語的な回想や空想、白昼夢、そしてアイデアを生むなどの創造性に関係することが分かってきました。「ぼーっとしている時にこそインスピレーションがわく」理由だと考えられています。
実は私も集中が続かず、すぐに思考が脇道に逸れてしまうので(景気づけにわざと神経神話っぽい言い回しにすれば「DMN優位脳」でしょうか)、勉強や特に本を読むことを続けられず苦労しました。
以下に、いくつか工夫を並べてみます。
1.「脳の特性」を受け入れる
入れ替わりまでの時間の長短は個人差やコンディションによって様々だが、CENとDMNとが入れ替わり活動すること自体はヒトという生き物として当然のことだと認めましょう。
人より短いスパンで入れ替わりが起こるタイプなら、それを自分の脳の特性として認める。こうした受容は直接には何ももたらさないが、自分をバカだ無教養だと否定し落ち込み、有効な行動もモチベーションも生じなくなる悪循環から離脱しやすくなります。
2.「頭の中」を言葉や図で書き出す
DMNの機能が内向きだとすると、CENは外的注意に関連した課題で活動します。
頭だけで考え込むとシームレスにDMNに切り替わるのなら、注意を外向きに維持すれば切り替えが起こりにくくなります。
言葉を書き出しながら/図を描きながら考えるのは簡単にできる方法です。
CENが得意なのは、ワーキングメモリを活用し、目標に応じて計画を検討/記憶されたルールを呼び出し、選択肢を比較し決定する分析的思考です。頭の良さげな人は、こうした作業を頭の中だけでやって羨ましがられますが、これらのプロセスは言語化・記号化が可能です。
苦手なら、いちいち書き出して確認しながら行うことができます。書き出し確認自体が、こうしたプロセスのトレーニングとなり、技能の向上とあまり意識せずにできるようになる自動化への橋渡しともなります。急がば回れ。
3.「思いつき」を記録する
せっかくDMNが優位なら、それを活用しましょう。早速、脳科学業者が「デフォルトモードで創造的になろう!」と瞑想を勧めたりしています。
モノに感情移入したり、記憶の断片から物語を妄想するのに長けたDMN優位者は、分析的思考だけでは間に合わない、解決に新しい見方/アイデアが必要な、高度な問題解決に必要な人材です。現代社会では新奇なアイデアが尊ばれる場面は限定的ですが(なので多くの才能ある発想者は自分の奔放な思考を抑圧しがちです)、アイデアは身を助けます。
とりあえず自分の思いつきを記録することから始めましょう。すぐに役に立たなくても、他の人が決して真似できない知的財産になります。