職場は新しい刺激と情報のオンパレードです。そのたびに注意はそちらに向かざるを得ませんし、必要な情報はつかまざるを得ません。一時保管場所にすぎないワーキングメモリに情報をポンと置くだけでは、覚えたことにはならないのです。

 メモリーミスをなくす第一歩は「いまはしっかり覚えている感覚があるけど、この腕を放したら忘れてしまうんだよな」とワーキングメモリの特性を認識し、「覚えている」と思っている記憶も、実は「はかない」記憶にすぎないと自覚しておくことです。

ワーキングメモリの容量は
トレーニングで増やせるのか?

「そんな大事なワーキングメモリなら、増やせばいいじゃないか」と言う人がいるかもしれません。たしかに最近では「ワーキングメモリトレーニング」や「ワーキングメモリを鍛える」といった趣旨の本を見かけます。

 ただ、私はワーキングメモリ自体を鍛えられないと考えています。先ほど説明したように、ワーキングメモリは「注意」と深く絡んでいて、これを鍛えるというのであれば、「腕」つまり注意の本数を増やすことであり、それは難しいと考えるからです。

 実際、「ワーキングメモリトレーニング」を行って、そのスコアがよくなったとしても、注意という「腕」の本数が増えているとは限りません。そのトレーニングの経験を積むことで、ワーキングメモリへの負荷が減り(つまり、必要な注意=腕の数が減り)、スコアがよくなっているだけかもしれないのです。もしそうであれば、行ったトレーニングは楽になっても、それに関連しない作業にはプラス効果は出ないのです。

 たとえば、ワーキングメモリの限界を実感できるワークとして「プラス1問題」というものがあります。次ページで紹介しますが、異なる数字を組み合わせて作った数字の各桁に、1を足していくという問題です。

 実際にやってみるとわかりますが、これを毎日続けて「トレーニング」すると、最初は「プラス1問題」がきつかった人でも、いずれ「プラス3問題」ができるようになります。

 ただ、これはワーキングメモリの「腕」、つまり注意の数が増えたから楽になったとは限らないのです。