上級社員層にもようやく
「資本主義」がやって来る

 テレワークの普及で、今まで大企業に囲い込まれていた技術職の社員のような非流動的な人材層の待遇が弾力化し、雇用が流動化する。雇用が流動化する際に、人材はあたかも商品のように取引されることになる。

 これまで日本では、比較的シンプルな労働に従事する非正規労働者や彼らと競合する層の正社員は、労働力が徹底的に商品化されて競争にさらされてきた。ところが、大企業の正社員はいったん入社すると数十年にわたるメンバーシップを持ち、個人の生産性の差をあまり反映しない報酬システムの下に安住していた。「労働力の商品化」の度合いは極めて小さかったといえるだろう。

 しかし、テレワークの普及は、「(所得階層的に)上級社員層」にも労働力の商品化をもたらす要因として働く可能性がある。つまり、「上級社員層」にやっと資本主義化が及ぶわけだ。岸田文雄首相が勘違いしているように「新しい資本主義に移行する」というよりも、「新しく、資本主義がもたらされる」のである。

 しかも、ここで生まれる人材流動化のいいところは、「会社間」にも厳しい競争がもたらされることだ。この競争によって、賃金の上昇が後押しされる可能性がある。似た事例としては、かつての外資系の投資銀行間の人材引き抜き合戦が、投資銀行マンの報酬の高騰をもたらしたことを想起してほしい。

 会社間の人材獲得競争に自ら乗り出すことは、NTTのようにある程度人材を抱え込むことができている古参の大企業にとって短期的には有利でないはずだ。ただ、内外のIT企業などとの人材獲得・確保の競争状況を考えると、積極的に競争を仕掛けていかざるを得ない事態の切迫を感じたのだろう。

 日本の上級社員層の間に「資本主義」が広がることは、経済の成長と活性化のために大変結構なことだ。テレワークの普及はその流れを後押しする一つの要因になるはずだ。

 まさか、あのNTTがやってくれるとは思わなかった。大胆な決断に拍手を送るとともに、その実行がうまくいくことを祈りたい。