ロシアのウクライナ軍事侵攻は
自らの首を絞める行為だった
正式な加盟には長い年月がかかるが、今後これらの国では、民主化がますます進み、経済的にEUと一体化していくことになる。つまり、ロシアの軍事侵攻という行為自体が、NATO・EUの東方拡大をさらに進める結果となり、それは旧ソ連領だった国にまで及ぶという結果を招いたわけだ。
国を奪われ、生活を奪われ、命を奪われているウクライナ国民の皆様には本当に申し訳のない言い方になるが、ウクライナ戦争という「局地戦」で、ロシアがウクライナ東部を占領し続けたとしても、世界全体で見れば、この戦争は米英の完勝だ。
何しろ、中立だったスウェーデン・フィンランドのNATO加盟、ウクライナ・モルドバのEU加盟を前進させるという成果を生んでいるのだ。
米英がウクライナへの軍事支援を続けるのは、ウクライナ国民がそれを望むからではある。だが、それ以上に、戦争が続けばロシア経済を破壊できるし、プーチン大統領を失脚させられる可能性が高まるかもしれないという「下心」があるからだろう。
続いて、こうした米英のスタンスとは異なり、仏独伊などEU諸国の多くが、ウクライナ紛争の早期停戦を望んでいる要因についても少し解説する。
自国の利益を重視する欧州は
「力による現状変更」を黙認している?
実は仏独伊をはじめとするEU諸国は、ロシアからの天然ガスパイプラインにエネルギー供給を深く依存している。
従って、ロシアへの経済制裁によって貿易を遮断し続けると、EU諸国のエネルギー調達に悪影響が生じる。その影響をできる限り軽微にするため、早期停戦を希望しているのだ(第304回)。
だが、こうした欧州主要国の対応は、よく考えると矛盾している。
欧州諸国の首脳陣は、公式には「力による一方的な現状変更」を絶対に認めないと主張している。にもかかわらず実際は、自国のエネルギー安全保障の観点から「ロシアが東部ウクライナを占拠したまま」での早期停戦を望んでいるのだ。
このことは、暗に「力による一方的な現状変更」を認めているのと同じではないか。
各国が裏表のある対応を取れる要因は、前述したNATO・EUによる東方拡大の事実上の成功が、仏独伊に対しても有利な状況を生み出しているからだろう。内心に余裕があるからこそ、「ロシアに恥をかかせてはならない」というマクロン仏大統領の発言も出てくるのである。
さらに、仏独伊と同じく“勝ち組”であることが確定している米国では、ウクライナに「領土割譲の妥協案」を提案する声さえ浮上している(ゼレンスキー大統領は断固拒否しているが)。
欧米諸国はこのように、表向きは武器供与などの支援を続けながらも、その裏では「勝者の余裕」を持って戦況を見守っているのである。
一方、同じ先進国でありながら、欧米よりも切羽詰まった立場に追いやられている国がある。
「現状のままでの停戦」「領土割譲の妥協案」など断固として認められない“その国”とは、他ならぬ日本だ。