その要求とは、「『NATOがこれ以上拡大しない』という法的拘束力のある確約をする」「NATOがロシア国境の近くに攻撃兵器を配備しない」「1997年以降にNATOに加盟した国々からNATOが部隊や軍事機構を撤去する」というものだ。

 これらの内容からも、ロシアがNATOの東方拡大によって、いかに追い込まれていたかがわかる(第297回・p2)。

 ただし、ウクライナ戦争開戦から4カ月がたった今では、ロシアはウクライナ東部を占領して大攻勢に出ていると報じられている。

 それでも、欧州全体の情勢に鑑みると「ロシア不利」の状況に変わりはない。それどころか、ロシアはさらに追い込まれているといえる。

「ロシア大攻勢」が報じられる今でも
「ロシア不利」と言い切れる理由

 そう言い切れる最大の要因は、スウェーデンとフィンランドがNATO加盟を正式に申請したことだ。

 スウェーデンは過去200年以上にわたって軍事同盟への加盟を避けており、第2次世界大戦中でさえ中立を保ってきた。フィンランドはロシアと1300キロメートルにわたって国境を接している。従来はロシアとの対立を避けるために、NATO非加盟の方針を貫いてきた。

 そんな両国が、ロシアのウクライナ軍事侵攻を受けて、歴史的な「中立政策」の転換を決めたことが持つ意味は大きい。

 ただ現在、NATO加盟国の一つであるトルコが反対しており、両国の加盟交渉が難航している。

 それでも、バイデン米大統領は「両国が正式加盟前に攻撃を受けた場合、加盟国と同様の支援をする」と表明している。この意思表示は事実上、NATOの安全保障網がさらに東方に拡大したことを意味する。

 また、両国がNATO側に付いたことは、単にNATOの勢力圏が東方拡大したという以上に、ロシアの安全保障体制に深刻な「二つの影響」を与えている。

 影響の一つ目は、地上において、NATO加盟国とロシアの間の国境が、現在の約1200キロメートルから約2500キロメートルまで2倍以上に延びることだ。これにより、ロシアの領域警備の軍事的な負担は相当に重くなる。

 二つ目は、海上においても、ロシア海軍の展開において極めて重要な「不凍港」があるバルト海に接する国が、ほぼすべてNATO加盟国になることだ。NATOの海軍がバルト海に展開することで、ロシア海軍は活動の自由が厳しく制限されてしまう(長島 2022)。

 追い打ちをかけるように、EUは先日の首脳会議で、ウクライナとモルドバを加盟候補国として承認した。ジョージアについても、一定の条件を満たせば候補国として承認する方針で合意した。