――その勢いで、24年の大統領選に出馬し、当選する可能性もあるのでしょうか?

 その可能性は十分あると思います。共和党の他の有力候補は、ロン・デサンティス(フロリダ州知事)、マイク・ポンペオ(元国務長官)、マルコ・ルビオ(上院議員)、テッド・クルーズ(同)あたりでしょうか。いずれも知名度や人気でトランプにはかないません。トランプ自身も出る気満々ですしね。

バイデンの次は再びトランプ!?
注目される11月の中間選挙

――バイデン大統領の支持率も低迷しています。

 大統領の命運はガソリン価格が決めると言われる米国で、ガソリン価格が初めて5ドルを超えて大騒ぎになりました。トランプにとっては、バイデンの不人気は追い風でしょうね。今年の注目は11月の中間選挙です。中間選挙の結果は、24年の大統領選挙の行方を占うものになりますから、米国民は注視しているのです。ここで、トランプが推す「トランプチルドレン」が多数当選すれば、トランプ大統領の再登場は現実味を帯びてきます。

 たとえば5月、オハイオ州で行われた中間選挙に向けた上院予備選ではトランプが支持した候補者が勝利しました。一方、ジョージア州の知事選挙の予備選では、トランプが支持した候補は負けるなど、熱い戦いが繰り広げられています。

 私は、1年にわたる米国の取材で、トランプには支持者とは別に、「信者」と呼ぶべき鉄板支持層がいることを知りました。一般的な意味での支持者は、トランプに投票はしても、選挙に負けたことはきちんと認めます。しかし信者たちは、トランプの語るうそを頭から受け入れ、陰謀論を駆使して「選挙は盗まれた」と主張します。

 トランプは3万回ものうそをつきまくって信頼を失い、再選できませんでした。その後も「不正選挙があった」と根拠のないうそをつき通した挙げ句、あろうことか、鉄板支持層をSNSであおったために、21年1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件が起きました。死者5人、警官だけでも約140人の負傷者が出た大惨事でした。これは現職大統領が企てたクーデターです。私は、ここでトランプの政治生命は終わったと思ったのですが、そうではなかった。彼が「選挙は盗まれた」と言い張ったことで、今なお、それを頭から信じる“トランプ信者”が4700万人もいるのです。トランプは3万回ものうそをついて信頼を失い、再選できなかったわけですが、一方で、このうそがトランプ信者をつなぎ止めてもいるのです。

――横田さんはこれまでも、アマゾンやユニクロで現場アルバイトとして潜入取材を行ってきましたが、今回の共和党選挙ボランティア潜入取材は、命の危険を感じる体験をするなど、これまでで一番大変だったのではないでしょうか。本を読んで、「街中で銃弾が飛び交うことがあり、国民皆保険でないなど、住むには不安の多い国だな」と改めて思いました。

 私が選挙戦の取材をしていた20年5月、黒人男性のジョージ・フロイドが警察官に殺害され、事件が起きたミネアポリスでは、すぐさま抗議デモが発生しました。警察署に放火したり、略奪が起きたりするなど、日本人の考えるデモとは訳が違います。その現場を取材していたとき、私の頭上を実弾とおぼしき物体が、ロケット花火のような「シュッ」という音とともに通り過ぎました。米国には4億丁もの銃があり、合法的に持ち歩ける州も多いですから、こうしたデモで一般市民が銃を発射する事件もたびたび起きています。また、連邦議事堂襲撃事件の渦中で取材していた際は、催涙ガスを浴びました。階段は人でごった返していて、将棋倒しにでもなったら踏まれて死にそうでした。催涙ガスで視野は極端に狭まるし、恐怖に震えましたね。実際、亡くなった人のうち3人は踏まれて命を落としたようです。