ルールが分かれば、デザインが読み解ける

ロジカルシンキングでデザインセンスを磨く――『見るだけでデザインセンスが身につく本』日本出版販売入社後、特販営業部、楽天ブックス等を経て、2003年よりマーケティング部門にて、データマーケティング・販売企画を中心に担当。MD課長、広報課長等を経て22年3月に退社。現在は日販のマーケティング部アドバイザーとしてデータマーケティングツール開発等の業務に携わる。NPO本屋大賞実行委員会理事、HONZメンバー。 Photo by ASAMI MAKURA

 実際に、本書の大半は「デザインの的」となるフレームワークの解説に充てられています。取り上げられているのは、ノンデザイナーも扱う機会の多い「レイアウト」「配色」「フォント」「文字組み」「写真」「イラスト」「グラフ」「図解」という八つのテーマです。

 「配色」の項を見てみると、まず科学的視点から色の組み合わせが説明され、青、赤、黄……など、それぞれの色が持つイメージや、それらがもたらす効果などについて語られています。それぞれの色のイメージが国によって違うことについても触れられています。軽く触れられているだけですが、グローバルな影響を考えざるを得ない昨今のビジネスにおいて「言葉が通じなくても伝わってしまうデザインの意味」を考えることの大切さに気付かせてくれます。

 「見るだけ」と書名に掲げられているぐらいですから、各テーマがそれほど深く掘り下げられているわけではありません。しかし、基本的なセオリーと、日常的に使えるテクニックは満載です。これを読んでおくだけでも、デザインに対する意見を求められたときの回答がレベルアップできそうです。

 例えば「人の視線の動きには、Fの法則・Zの法則があると聞きましたが、このウェブサイトのレイアウトは法則通りではありません。何か狙いがあるのでしょうか?」なんて質問もできそうです。違和感をきちんと言語化できれば、デザイナーとのやりとりも前に進みやすくなるのではないでしょうか。

デザインセンスを、後天的に磨いていこう

 自分でプレゼン資料を作成する際にも、活用したいと思うルールがたくさんありました。そして、本書を読んだことで改めて気付いたのは、ここで紹介されているようなデザインセオリーが、すでに身近なツールにセットされているという事実です。

 プレゼン用のアプリを開けば、さまざまな書類のテンプレートや、失敗しない配色セット、フォントの組み合わせが勝手に出てきますよね。それらはまさしく、本書で紹介されているルールに沿ったものなのです。デザインツールに組み込まれた機能をそのまま使うだけで「センス」は補填され、平均点が出せるようになっているんですね。ツールの価値が再認識できました。ありがとう、PowerPoint!

 このように、センスを磨くためのツールは、すでに身近にあるのです。とはいえ、パワポが勝手に書類を仕上げてくれるわけではありません。デザインのような表現活動は「そもそも自分の中にある知識や経験の再編集」である、と本書は説きます。

 体を健康にするためには、体に良いものをたくさん食べなくてはいけません。それと同じように、センスのいいものにできる限り多く触れ、使い、感じることが、何よりも大事な「デザインセンス」獲得への道なのです。

 本書の本体価格は1800円です。オールカラーで1000円台だなんて、大したものだと思います。先ほども触れたように「見るだけで」と書名で宣言しているぐらいですから、短い文章に厳選されたキーワードが散りばめられています。長文を読むのはちょっと苦手……という方にもお薦めです。さっと読めるということは、「積ん読」になってしまう可能性が低いということ。デザインを自分のビジネスに役立てようと思ったとき、確実に役立てられる入門書として、まずは手に取ってみてほしいと思います。