日本企業、政府、
個人への指針

――デジタル資本主義において、日本企業はどのような戦略を取るべきでしょうか。

 これまでの日本企業は、製品品質の向上のため、細かい改善を重ねて良いプロダクトを売るという戦略で、産業資本主義の筆頭格として存在感を示してきました。しかし今や、モノづくりだけでは韓国、台湾、中国に勝てなくなっています。

 今後、日本企業が国際競争力をつけるにはまず、デジタル資本主義の中で、データを使って価値を出すビジネスモデルに転じることが肝要です。

 人々に使ってもらい、それによって蓄積されたデータに基づきソフトウエアを絶えずアップデートして、ライフタイムバリューを高め、新しい価値をつくり続けなければなりません。とりわけ製造業は、アズ・ア・サービス化が必須です。

 中堅・中小企業も、デジタルの活用によって生産性向上の可能性が大いにあります。中京地区の某金型メーカーは、自社の加工機の稼働状況をIoTで可視化して、複数工場間でデータを持ち合うことで稼働率の平準化を実現したり、この仕組みを同業他社まで広げて地域全体の稼働の平準化、生産性の向上を目指したりしています。デジタル・コモンズの考え方に近いものと言えるでしょう。

 理想主義的に聞こえるかもしれませんが、この5年間の私たちの調査研究のデータを踏まえても、デジタル増価革命は確実に起こっている事象であり、デジタル・コモンズ的なコミュニティやプラットフォームをつくっていくというシナリオが、日本全体の生産性の向上につながり、持続可能な経済成長を続ける上でも合理的な解になるはずだと思います。

――政府への指針もお願いします。どのような施策を打つべきでしょうか。

 スマートシティインデックスによる都市ランキングで上位に位置する国は、おしなべてカーボンニュートラルを進めるためのデータのトラッキングが可能な国です。

 デンマークのコペンハーゲンでは、温室効果ガス対策について排出されるガスをモニタリングして可視化できない限り、カーボンニュートラルの達成は不可能だと宣言しました。デジタル化は温暖化対策において不可欠なのです。このランキングで、東京は79位、大阪は80位に甘んじています。

 カーボンニュートラルに向けて頑張りますと言ったところで、環境をモニタリングできなければ対策を立てられず、PDCAサイクルを回すこともできず、単なる根性論に終わってしまいます。こうした取り組みは、大都市よりも地方都市の方が規模的には成功しやすいでしょう。たとえば山形県鶴岡市は、デジタルでモニタリングしながら地域レベルでCO2削減を目指しています。

 ただし、民間では、リターンがないものに投資をすることは難しいので、そこにはやはり政府の支出が必要になるでしょう。現在、世界のESG投資は約35兆3000億ドルに達しています。利子を低くするなど、金融側からプレッシャーをかけるというアイデアで、ESGが進んでいる側面もあります。税金、利子、ペナルティなどの制度設計で、取り組むと経済的なメリットがあるという市場メカニズムをつくることも大切です。

 日本は残念ながら、なかなか「小異を捨てて大同につく」という機運になりにくく、「総論賛成、各論反対」のまま、個社の利益にしがみついていて、データ共有は進んでいません。たとえば、物流コードを共通化すれば、少ない台数のトラックで物流を効率化できます。しかし、現状では、物流コードは業種や企業によってもばらばらで、なかなか既存のしがらみを捨てられません。

 政府は、日本全体のために意図をもって既得権益を排するような企業行動を促すべきで、その面での政府のリーダーシップがもっとあったほうがよいと思います。また、税制や金利の優遇など企業側にとってのインセンティブも必要でしょう。