三菱・三井・住友 揺らぐ最強財閥#3Photo:JIJI

三井グループにおいて“外様”であるトヨタ自動車が、「御三家」の一角である三井不動産と急接近している。トヨタグループ傘下のトヨタ不動産が三井不動産の部長を社長に招聘したほか、東京都内では“最後”の大型プロジェクトである築地再開発事業に三井不動産、読売新聞グループと共に参画する。もともと資産管理会社の色合いが強かったトヨタ不動産を不動産デベロッパーに脱皮させる動きの狙いとは。特集『三菱・三井・住友 揺らぐ最強財閥』の#3では、トヨタ不動産の“野望”に迫る。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)

トヨタ自動車の豊田章男氏が
三井不トップに社長派遣を要請

 トヨタ自動車が、三井グループの“一員”となったのは1970年代にさかのぼる。三井グループは、戦後の財閥解体後にいち早く再結集して勢いを増していた三菱、住友グループの後塵を拝していた。そこで61年に結成した社長会「二木会」の活性化を図る目的で、旧三井銀行の取引先である三井直系ではない企業を招いた。「次世代を担う企業」として、トヨタも二木会に加わったのである。

 もっとも300年以上の歴史を誇る三井グループにとって、当時日本有数の自動車メーカーであるトヨタは創業から半世紀も経っておらず、まだまだひよっこの存在。三井グループの一員になったものの、トヨタは二木会で“オブザーバー”という立場だった。

 しかし、いまやトヨタは連結売上高45兆円(2024年3月期)を超える日本一の企業であり、世界で944万3000台(同)を販売する押しも押されもせぬ世界一の自動車メーカーだ。トヨタの時価総額は約41兆円で、三井グループ御三家(三井住友フィナンシャルグループ、三井物産、三井不動産)の合計時価総額(約23兆円)をはるかにしのぐ。もはやオブザーバーという立場では収まらない巨大な存在にのし上がった。

 そのトヨタの創業家である豊田家と三井家は、浅からぬ縁がある。トヨタ自動車会長の豊田章男氏の母であり、父章一郎氏(故人)の妻である博子氏は旧三井財閥の子孫。由緒正しい三井11家の一つ、「伊皿子家」の8代目当主に当たる三井高長の三女だ。また章男氏の妻、裕子氏は三井物産副社長だった田淵守氏の長女で、三井グループと縁のある人物である。

 三井グループの御三家の中では、三井不動産はトヨタとの結び付きが薄かったが、近年はトヨタを超重要顧客に取り込もうと猛アプローチをかけてきた。

 三井不動産は16年、旧東和不動産(22年にトヨタ不動産へ改称)が開発した複合ビル「シンフォニー豊田ビル」の上層階にテナントとして入居し、「三井ガーデンホテル名古屋プレミア」を開業させた。さらにグループ会社の三井不動産レジデンシャルが17年、トヨタの城下町である愛知・豊田市に26階建てのタワーマンションを開発した。地方の中核都市以外で、首都圏が地盤である同社がタワーマンションを開発するのは、極めて異例のこと。“トヨタ狙い”は明白だった。

 三井不動産が手掛けた18年竣工の大型複合施設「東京ミッドタウン日比谷」では、トヨタの高級車レクサスのショールームを兼ねたカフェをメインテナントに誘致。19年に竣工した三井不動産の本社がある複合施設「日本橋室町三井タワー」には、トヨタの車載OS(基本ソフト)の開発を手掛けるトヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント(現ウーブン・バイ・トヨタ)が入居した。

 そして、両社の急接近を象徴する出来事があった。トヨタグループ中核会社の一つであるトヨタ不動産は21年3月、三井不動産のワークスタイル推進部長だった山村知秀氏を社長に迎え入れる人事を発表したのだ。グループ首脳が歴代トップを務めてきたトヨタ不動産で初めてグループ外から社長が抜てきされる人事に、トヨタグループ内はもちろん、不動産業界においても衝撃が走った。

 トヨタグループの関係者によれば、実はこの社長人事、章男氏が当時の三井不動産の菰田正信社長(現会長)に「力を貸してください」と頭を下げて要請したものだという。

 章男氏直々の要請を受け、菰田氏はオフィスビル、商業施設、そして財務畑も経験し、「オールラウンダー」として活躍していた山村氏をトヨタ不動産の社長に送り出した。

 そもそも、なぜトヨタは三井不動産に支援を求めたのか。背景にあるのは、トヨタ不動産がグループ内でもユニークな顔を持つという点だ。次ページでは、トヨタが三井不動産に支援を求めた理由に加え、トヨタ不動産の内実もひもとく。