フルグラは“お友達作戦”で
売り上げが10倍に

 さて、本題に入る前に、簡単にカルビーとオーツ麦の関係について言及しておこう。実は、カルビーは以前からオーツ麦を別の製品で使っており、その使用量では国内トップクラスの食品メーカーとなっている。

 その製品こそが、業界のシリアルブランドの中でトップの売り上げを誇る「フルグラ」だ。フルグラは、グラノーラにドライフルーツなどを混ぜた製品であり、そのグラノーラの主原料がオーツ麦なのだ。

 ただ、今回のベイクドオーツとフルグラでは異なる点がある。まず、ベイクドオーツは原料の穀物にオーツ麦だけを使っているが、フルグラはオーツ麦の他、ライ麦粉、玄米粉、米粉、小麦ふすま(小麦の表皮の部分)など複数の穀物を混合していることが相違点だ。

 さらに、ベイクドオーツは最小限のオリゴ糖のみを使用しているのに対し、フルグラはシロップを混ぜ合わせてから焼き上げられ、ほどよい甘さで食べやすい。すなわち、ベイクドオーツは、主にダイエットが目的であるオートミールユーザーに照準を絞り、「オーツ麦のみを使用」し、「甘さを控えている」のがポイントなのだ。

 また、参考までにフルグラの歴史も振り返っておく。フルグラは、91年 、シリアル製品といえばコーンフレークが全盛だった時代に登場(当時の商品名はフルーツグラノーラ)。たが、年間売り上げは10億円前後と目標に届かない時期が続いた。95年にりんご、02年にイチゴのドライフルーツを入れるなど工夫をして何とか年間売り上げは30億円となったが、その後は伸び悩んだ。

 そうした中、「潮目が変わったのが12年度」と、長年フルグラのマーケティングを担当し、現在はマーケティング本部オーツ麦チーム ブランドマネジャーを務める網干弓子氏は話し、こう続ける。

「従来、シリアル業界は、朝食を抜きがちな若い女性を主なターゲットとし、各社がそれを取り合うシェアゲームを繰り広げていた。そのため、市場規模は約250億円で頭打ち状態だった。そこで、そうした限られたパイの奪い合いから脱するため、フルグラでは、若い女性に限らず、ターゲットを家族全員の朝食に転換。それに基づき、今までと違う販促を行う方向性に大きくかじを切った」(網干氏)

 具体的には、家庭で朝食の決定権を握っている中高年の主婦や働く女性が立ち寄るスーパーマーケットの店頭などで、大量のサンプルをまくローラー作戦を展開し、認知を図っていったのだ。

 だが、一足飛びにご飯やパンなどの主食の代わりに食べてもらうのは難しい。そう考えて採った施策が、当時、売り上げが拡大していたヨーグルトにかける新しい食べ方をPRすることだ。「ご飯やパンなど主食たちの横にある一品として仲良く並べて食べてもらう“お友達作戦”を実施した。これによって朝食に取り入れやすくなり、人気が出た」(網干氏)

カルビーがオートミール市場に参戦!「フルグラの大成功」再来なるか?“お友達作戦”では、スーパーマーケットに加え、ビジネス街でも働く女性などにサンプルを配布する施策を展開した

 こうして、シェアゲームから抜け出し、シリアルをまだ朝食で食べていなかった幅広い年齢層の獲得に成功。自ら新しい市場を創り出す攻めのマーケティング戦略が実を結んだ。結果、12年度は前年比の2倍近くとなる63億円の売り上げを計上し、以後も毎年およそ1.5倍ずつ増加。16年度には292億円という11年度比で約10倍となる金字塔を打ち立てたのだ。

 このフルグラの躍進によって、16年のシリアル市場は過去最高となる602億円に膨れ上がった。