カルビーはフルグラでの成功体験を
生かすことができるのか?

 しかし、16年度がピークだった。以降、売り上げは減少したり、停滞したりする局面が続く。ある程度認知が行き渡り、新規顧客を取り切ったことが主な要因だ。毎年240億円前後を売り上げ、シリアル市場の“巨人”であることに変わりはなかったが、カルビーがシリアル事業を伸ばすためには、何らかのテコ入れが必要な状況となっていた。

 そうした中、突如として巻き起こったのが、冒頭でも言及したオートミールブームだ。フルグラは、21年度(20年4月~21年3月)は巣ごもり特需で他のシリアル製品と同様に売り上げを伸ばしたが、21年度(21年4月~22年3月)は、前年の反動に加え、他社のオートミール製品が大きく伸長したことによって、シェアダウンに追い込まれた。

 しかし、カルビーも手をこまねいていたわけではない。以前からフルグラに加え、シリアル事業でもう一本の柱を作るための施策を進めていた。それがオートミール市場を狙った製品の研究開発である。ただし、後発となるカルビーが競合と同じような製品を出しても、消費者を振り向かせることは難しい。

 そこで、手がかりを得るために行ったのが、20代~60代女性のオートミールユーザーを対象とした独自のアンケート調査だ。

 その結果、オートミールの魅力として「食物繊維が取れる」や「糖質が低い」という答えが上がった一方で、ネガティブな側面として「味がおいしくない」「調理の手間がめんどうくさい」という回答も上がってきた。

 これは、オートミールの独特の食感を苦手としたり、牛乳や水を入れて加熱調理することを面倒と感じたりする人が一定数いることを意味する。また、そうした人たちがSNSやインターネットで発信した意見を見て躊躇するなどして、まだ食べたことがない人が多くいることも分かった。

「つまり、離脱者もいれば、トライアルさえしていない人もいる。そうしたブームからこぼれてしまっている人を、オートミールが抱える課題を解決することによって取り込めれば、後発でも十分に勝算はある」(網干氏)と、カルビーは考えた。

 その答えが、「焼くこと」だったのだ。カルビーは、フルグラで培ってきた技術をフル活用し、オートミールにじっくり熱を通すことで、香ばしいオーツ麦の味わいとおいしさを引き出すことに成功。これで、味への懸念を払しょくした。

 また、焼く加工を施すことで、調理が不要となり、牛乳やヨーグルトをかけてすぐに食べられるようにした。こうして、課題とされたオートミールの弱点を補うことによって、離脱者のリトライを促したのだ。

カルビーがオートミール市場に参戦!「フルグラの大成功」再来なるか?ベイクドオーツは牛乳やヨーグルトをかけるだけで食べられる簡便さが特徴。サクサクした食感も楽しめる。他のオートミール製品は水や牛乳を入れて加熱する必要があり、食感もボソボソする傾向がある

 加えて、離脱者と同様の課題を持つ未エントリー層のトライアルも狙った。こうして、既存の顧客を他社から奪うシェアゲームではなく、新しいターゲットを開拓する、まさに、フルグラで成功したマーケティング戦略と似た試みを、ベイクドオーツでは、オーツ麦を“焼く”ことで実践していったのだ。

 22年4月18日の発売後、初動は良く、「オートミールカテゴリーの中でも上位に食い込んでいる。売り上げは好調に推移している」(網干氏)という。購入者の半分がフルグラなどカルビーのシリアル製品を買ったことがない、同社にとって新規の顧客であることもポイントだ。既存製品とのカニバリを起こしていない可能性が高く、ダイエットなどを目的とする新たなユーザーをプラスオンできていると考えられる。

 国内のオートミール市場は勢いがあるとはいえ、まだ立ち上がったばかり。欧米のように朝食の定番になっているわけではない。だが、逆にいえば、それだけ伸びしろが期待できる食品であるということ。将来的には米やパンと並ぶ“第三の主食”になる可能性もある。カルビーでは、さまざまな食べ方、アレンジレシピなどを積極的に発信し、国内の食事シーンでの定着を目指していく計画だ。