ところがその後、トランプ氏と共和党の有力議員らは一斉に「法執行機関を政治的に利用しようする不当な捜査だ」と、怒りをあらわに激しい言葉を使って司法省やFBIを攻撃した。

 共和党上院指導部の一人、リック・スコット議員は「FBIはまるでナチスドイツの秘密警察のようだ」と辛辣(しんらつ)に批判し、保守派急先鋒のポール・ゴサール下院議員は「FBIを破壊して、アメリカを守るべきだ」と発言。さらに共和党下院トップのケビン・マッカーシー院内総務は、「家宅捜索は司法省を“政治的な武器”として利用する行為である。11月の中間選挙で共和党が多数派を奪還したら、ガーランド司法長官を捜査する」と脅迫めいた発言をした。

 米国では現政権の司法省が前大統領を捜査・訴追する場合は政治的な余波が生じることが予想されるため、通常よりも高い基準が求められている。ガーランド司法長官は当然そのことを認識しているであろうし、今回の家宅捜索も他の方法を試みた上で行われたもので、けっして「不当捜査」「司法省の政治的な武器化」などではないと思われる。

 それにもかかわらず、米国の二大政党の一つである共和党の指導部が一方的に司法省を非難し、トランプ前大統領をまるで「不当捜査の被害者」であるかのように擁護するのは憂慮すべき事態である。

 家宅捜索の翌日、十数人の共和党下院議員がフロリダ州のマールアラーゴを訪れ、トランプ氏を励まし、一緒に写真を撮った。この様子は米国メディアで報じられ、写真の中のトランプ氏は勝ち誇ったような表情を見せていたが、それは「自分は不当捜査の被害者である」と訴えることができたからであろう。

 このような共和党議員の言動はトランプ氏の支持者にも大きな影響を与え、彼らの法執行機関に対する脅迫や暴力的な行動をエスカレートさせている。

 熱狂的なトランプ支持者が集まるSNSプラットフォームなどには司法省やFBIに対する怒りをあらわにした投稿が多く寄せられ、なかには「はっきり言おう。ガーランド司法長官を暗殺する必要がある」「すべての連邦捜査官を殺せ」「FBIの仕事をした者は皆、死に値する」などの脅迫も含まれているという。

 そしてこの種のプラットフォームに参加していたトランプ支持者の一人が実際にFBI事務所を襲撃する事件を起こした。