米国の政治風土を
暴力的に変えたトランプ氏

 ニューヨーク大学で権威主義政治の研究をしているルース・ベンギアット教授によると、米国の政治風土を暴力的に変えた張本人はトランプ氏だという。

「2016年大統領選に立候補した時から、トランプ氏とその周辺の人たちは政治風土を民主主義から権威主義に変えようとし始めました。トランプ氏は暴力を前向きなもののように語り始め、集会での演説中に“アイツの顔にパンチを食らわせたい”などと言い、人々に一種の“感情的な再訓練”を行いました。“隣の人に暴力的な言葉を吐いても悪いとは限らない”と言ったのです。それ以前の選挙集会では暴力は非難され、告発されていました」(PBSニュースアワー、2022年7月18日)

 そして共和党はトランプ氏の暴力的な政治スタイルを受け入れ、党内で暴力的な言葉が頻繁に使われるようになった。それは今回の家宅捜索に対する有力議員たちの激しい非難にもよく表れている。

 また、トランプ氏は大統領任期中に暴力的な白人至上主義者を擁護するような発言を繰り返した。特に問題となったのは、2017年8月12日にバージニア州シャーロッツビルで起きたKKKやネオナチなど白人至上主義団体の集会に反対する市民の抗議デモで、反対派の女性1人が死亡した事件に対する発言である。トランプ氏は白人至上主義団体を直接非難するのを避け、「衝突事件は双方に責任がある」と述べ、白人至上主義者の一部を擁護したのだ。

 1865年に設立されたKKKは黒人やユダヤ系などに対する殺人やリンチなどを繰り返してきた人種差別的な暴力団体だが、トランプ氏はそんな彼らを非難することを拒否した。

 米国史上初めて白人至上主義を擁護する大統領が誕生したことで、白人至上主義団体や極右勢力は一気に活気づいた。トランプ政権下では白人至上主義や白人国家主義を標榜するヘイト集団の数が増え、それに伴って黒人、アジア系などの有色人種やユダヤ系などを標的にした憎悪犯罪(ヘイトクライム)が急増したのである。

 トランプ氏が広めた暴力的な政治スタイルは11月の中間選挙にも影響を与え、共和党候補の選挙広告には暴力的なメッセージやイメージがあふれている。

 たとえば、アリゾナ州下院議員候補の広告には、「あなたの家族を怪しい民主党から守れるのはこのライフル銃だけです。半自動小銃が必要になるかもしれません」と書かれている。ちなみに半自動小銃は殺傷力が高く、最近米国内で急増している銃乱射事件に多く使用されているため、民主党などの銃規制推進派は販売禁止を求めている。

 ギアット教授は「共和党の中で頭角を現すためには、暴力的な言葉遣いをしなければならないのです」と指摘する。

 共和党の指導部は各候補が過激で暴力的な言葉を使っても、非難せずに黙認している。

 一方、民主党の政治家も過激な言葉を使うことはあるが、それを政治広告で使うことはない。ましてや中間選挙の候補が殺傷力の高い銃を手に持って、「これで圧政と戦うことができる」などというメッセージを発することはない。それは民主党と共和党の大きな違いだが、このように米国内の分断は政治的暴力や政治スタイルをめぐってもどんどん深まっている。